地球温暖化対策として再生可能エネルギーの導入が急務とされる今、日本でも「洋上風力発電」が次世代のエネルギー基盤として大きな注目を集めています。陸上風車は既に全国各地で導入が進んでいますが、洋上風車はまだ実証段階。設計ルールや法規制も整備が追いついていない状況です。
そのなかで国内の陸上風車設計の約7割を担い、洋上風力にも挑んでいるのが構造計画研究所。六本木ヒルズ森タワーなど超高層建築を支えてきた高度な構造設計技術を武器に、新たなフィールドへ乗り出しています。
今回は、洋上風力発電の設計を担当している薄田が、学生時代から現在に至るキャリアの歩み、洋上風力発電の現場ならではの困難とやりがい、そしてこの事業の未来について語ります。
私は小さい頃から算数や理科が好きで、気づけば自然と理系の進路を選んでいました。高校時代は「食べることが好き」というシンプルな動機から、管理栄養士を目指していましたが、ひょんなことから住環境学科※に進学することになりました。
建築というと、多くの人は意匠(デザイン)をイメージするのではないでしょうか。しかし、一つの建築物が出来上がるまでには様々な専門家が協業しており、建築設計だけでも「意匠設計」「設備設計」「構造設計」の大きく3分野に分かれます。私は大学に進学するまで、このことを知りませんでした。その中でも構造設計は、地震や台風などの災害に対して安全な構造を設計する、日本のような地震国においては極めて重要な仕事です。
工学的判断をもって安全な構造物をデザインする「構造」という分野に出会ったのがひとつの転機でした。当初は興味を持ちつつも難しそうだと躊躇していましたが、恩師に背中を押していただいたのを機に、大学では木質構造学研究室に所属し、主に伝統木造の研究に打ち込みました。
就職活動では、ゼネコンやハウスメーカー、設計事務所を視野に入れていましたが、構造計画研究所に惹かれたのは、その多様性でした。建築出身者だけでなく、理学、土木、情報系など多様なバックグラウンドを持つ人が集まり、事業領域も幅広い中で、異なる分野の人と協働できることが大きな魅力でした。
また、創業者の「社会のいかなる問題にも対処できるよう、総合的なバラエティに富んだ専門家を集めた工学を生業とした組織を作りたい」という思いにも深く共感しました。「ここなら自分の探究心や価値観に合う」と素直に思えたのです。
※住環境学科は建築学科と同様に1級建築士の受験資格を得られますが、家政学部住居学科をルーツとし、「生活者の視点」を重視する点に違いがあります。

入社後は、建築構造設計部に配属されました。大学・大学院で学んだ木造建築の知識を活かし、「脱炭素」への期待を背景に木造建築を推進する法が整備されるなど、勢いのある分野に取り組みました。特に、中高層建築物の木造化を可能にする次世代の建築材料CLT(直交集成板)に関する業務では、計算モデルの煩雑さが普及を妨げる一因となっていたため、その解析モデルを簡略化するコンサルティング業務などを担当しました。その他にも、木造住宅から大規模木造建築まで、多岐にわたる設計業務を経験しました。
数ある業務の中でも、火災で焼失した首里城の再建設計は特に印象に残っています。上長にとっても伝統木造建築物の設計は初めての試みであり、一般建築と比べて指針が少なく、時刻歴応答解析も必要とされるなど、設計難易度は非常に高いものでした。試行錯誤を繰り返し、社内外からのサポートも得ながら根気強く設計を進め、無事に完了させることができました。お客様からの高い評価をいただいたことは、大きな達成感とやりがいにつながりました。
キャリアを重ねる中で、新しい分野に取り組んでみたいという思いが募り、希望して風力発電設計部へ異動しました。建築も風車も対象物は違いますが、同じ「設計」という仕事であり、これまでの経験を活かして働くことができています。特に洋上風車の分野は発展途上であり、試行錯誤しながら進める必要があります。その中でこそ、木造建築の設計・コンサルティング業務で培った経験が大いに役に立っていると感じています。

当社が風車設計に本格的に取り組むようになった契機は2007年の建築基準法改正でした。高さ60mを超える工作物には、超高層ビルと同じように地震に対する厳しい安全基準を満たすことが求められるようになったのです。これにより、これまで超高層建築で培ってきた地震解析の技術を、風車の設計にも応用できるようになりました。
風車設計は一般建築物とは異なる風車独自の複雑な審査基準や制度、地盤等の特殊な解析が要求されることなどから参入障壁が高い分野であると言えます。当社は六本木ヒルズ森タワーをはじめとした大規模建築物の豊富な設計実績を持ち、地震解析を専門とする技術に強みがありました。その経験を活かし、新たな試みとして風車設計に参入しました。
現在は国内陸上風車の約7割を設計するまでに成長。建築から新分野へと領域を広げたことで、再生可能エネルギーの重要な担い手として確固たる地位を築いています。
私は現在洋上設計室に所属し、主に洋上風力の設計を担当しています。陸上に比べて洋上は国内での建設実績が非常に少なく、設計ルールや制度も整備途上です。海外の事例を参考にすることもありますが、その多くは地震を考慮する必要のない地域のもの。日本で風車を建設する際は、大地震時の安全性も確保する必要があり、設計の難易度は極めて高いと感じています。また、建築物では一般的に考慮されていない疲労設計や波浪に関する知識も要求されます。
ただ、この難しさそのものが大きなやりがいにつながっています。新しい知識を吸収しながら未知の分野を切り拓いていく感覚。国家プロジェクトに携われる特別な経験。どれもここでしか経験できない貴重な学びだと感じています。
風力発電設計部には、建築出身者だけでなく、多様なバックグラウンドを持つ人材が集まっています。洋上風力発電は地盤や波など複合的な知識を必要とするため、一つの専門分野だけでは対応しきれません。異なる専門性を持つ人材が協働することで、未知の課題にも立ち向かうことができています。
また、「手を挙げれば挑戦できる」という文化も当社の特徴のひとつです。私自身もそうでしたが、若手であっても希望すれば新しい分野に関わることができ、成長の機会をつかむことができます。こうした多様性と自由度の高さが、風力発電事業の拡大を支えているのだと感じています。

これからも当社は、洋上風力発電の国内導入に向けた設計を進めていきます。同時に、風況解析や地盤解析、数理的な手法を使った計画づくり、さらには維持管理に至るまで幅広い領域に取り組んでいきます。私自身も、日本固有の条件に適した設計手法を整備し、再生可能エネルギーの基盤を足元から支えていきたいと考えています。
これまでの私のキャリアは決して一直線ではありません。高校時代に管理栄養士を目指したこと、偶然出会った建築、そして木造から風車への転身。振り返ると、偶然と選択の積み重ねでした。しかし、不思議と後悔はなく、今までの経験全てが今の私を形作っていると感じています。
きっと読んでいる皆さんにも、この先「予想外の選択」を迫られる瞬間が訪れると思います。そのときに「これは自分に合わない」とすぐに切り捨てるのではなく、「やってみたら面白いかもしれない」と受け止めてみること。その姿勢が、新しい未来につながるのではないでしょうか。