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気になるリチウムイオン電池 「捨てる先に、人がいる」

2026/03/10

スマホやモバイルバッテリー、加熱式たばこやハンディファンなど、充電して使えるモノは年々増えています。実はこうした製品の多くに「リチウムイオン電池」が入っています。産業では太陽光発電やデータセンターの蓄電システム、医療用の遠隔ロボット、人工衛星などにも。一方で、モバイルバッテリーやごみ処理場の発火事故といったニュースが絶えません。気になるリチウムイオン電池の存在、その捨て方や資源という観点から深掘りします。

 

なぜ、発火事故が起きているのか?

「車の中に放置していたモバイルバッテリーが発火」
「リチウムイオン電池が混入して、ごみ処理工場で爆発」

今や生活に欠かせないリチウムイオン電池。充電式の製品を使う機会が増えるにつれ、危険な事故も増加しています。その事故は大きく二つに分けられます。

1. 使用中の事故

電車内での発火や充電中の発火もこのケース。実はリチウムイオン電池の中には引火性液体が使われています。そのため、高温の場所に長時間放置したり、落として強い衝撃を与えたりすると内部でショートを起こすなど、発火する危険があります。リチウムイオン電池の強みは小さくてもエネルギー密度が高くパワフルなことですが、その分、発火する威力も大きいのです。

多くのメーカーは内部に安全装置をつけたり、衝撃に強いパッキングをしたりと、安全設計に力を入れています。一方で、安全性が十分に保証されていない製品もあるため、買う前に製品やメーカーの情報を確認することが大切です。

2. ごみ処理中の事故

リチウムイオン電池はしっかり分別し、回収してもらう必要があります。でも、正しい捨て方がまだ浸透していないため、他のごみに紛れてしまい、収集車やごみ処理施設で発火する事故が相次いでいます。ごみ処理には機械で圧縮・破砕する工程があるため、そこでリチウムイオン電池に強い衝撃が加わると、安全な製品であっても発火します。また、ハンディファンなど一見するとプラスチックごみに見える製品もあり、それらを誤ってプラスチックごみに混ぜてしまうと、プラスチックは燃えやすいため火災が一気に広がる危険性があります。

逆に言えば、生活者がリチウムイオン電池の危険性をしっかり認識し、捨て方のルールを守ることで事故は防げるはず。でも、リチウムイオン電池が使われている製品を見た目で判断しにくいことも多いですよね。それが分かっても、捨て方のルールは自治体によって異なるため、どう処分すればよいか分からず困っている人も多いのでは?

リチウム蓄電池の火災で大損害!?を無くすには ライフサイクル全体で実効性ある回収体制の構築を | コラム | MRI 三菱総合研究所

 

捨てる先に、人がいることを想像する

まずは、充電式のモノには基本的にリチウムイオン電池が使われていると認識すること。三菱総合研究所 GX本部 サーキュラーエコノミーグループの葦津紗恵さんは「それらの製品は一見、電池が入っているように見えないので意識しにくいのでは?」と話します。

「乾電池を使った製品は、自分で電池を買って取り替えていたので意識しやすかったですが、充電式の製品は電池の存在が完全に隠れてしまっている。ワイヤレスイヤホンのように小型のモノは特に分かりにくいですよね。充電できるケースと左右のイヤホンに計3つもリチウムイオン電池が入っていますが、外見からプラスチック製品だと判断されて捨てられることもあるそうで、危険だなと感じます」(葦津さん)

実際に捨て方が分からず、他のごみに混ぜて捨てる人もいるそうです。空のペットボトルに加熱式たばこを入れたり、紙袋の中にモバイルバッテリーを隠したり…。私たちが想像すべきことは、ごみは必ず誰かの手によって処理されている現場の姿。ごみ集積所から回収する人、運搬する人、ごみ処理施設で働く人など…。

葦津さんとサーキュラーエコノミーに取り組む、藤井大河さんは実際にごみ処理施設などへ足を運び、現場で仕事をする人たちの苦労を目の当たりにしてきました。その経験から、捨てる先にいる人たちの存在を想像することが重要だと言います。

「例えば、刃物を捨てるときは誰かが怪我しないように新聞紙で包んだり、キケンと書いておいたりしますよね。リチウムイオン電池も同じです。正しい捨て方を調べず、よくない捨て方をしてしまうとどんな影響があるのか?回収や処理の現場を見る機会はなかなかないと思いますが、ごみの行き先を想像し、そこに目を向けることが意識を変えるきっかけになるのでは」(藤井さん)

リチウムイオン電池の捨て方は、市区町村によって異なります。小型家電回収ボックスと同じ場所で回収。危険ごみとして回収。まだ、回収していない自治体もあります。また、小型充電式電池のリサイクルを推進するJBRCでは、会員メーカーの製品を協力店などで回収しています。まずは、お住いの地域のルールや回収方法などをサッと調べてみてはどうでしょうか。「自治体名 リチウムイオン電池 捨て方」で検索するのがおすすめです。

環境省 YouTube「なくそう!リチウム蓄電池の火災!」

もう一つ、捨てる前にみんなで気をつけたいこと。それはリチウムイオン電池を使い切ってごみに出す習慣です。スプレー缶などは使い切って(ガスを抜いて)捨てるルールが浸透していますが、リチウムイオン電池も同じ。充電の残量をゼロにすることでごみ処理での発火リスクを減らすことができます。また、膨張や変形・破損した電池は危険なので捨て方は自治体などに確認する必要があります。

 

製品の「ライフサイクル」を理解する

リチウムイオン電池の分別・回収は資源化につながります。他のごみに混ぜると処分するしかないのですが、正しく回収すれば、電池に含まれた金属などの資源を再利用することが可能です。どんな製品にも「ライフサイクル」があり、その各段階でさまざまな立場からの関わり方があります。メーカーでの製造、流通・小売、生活者による使用・廃棄、ごみの分別・回収、再利用や再資源化など。資源を有効に活用するには、このサイクル全体を考えることが重要です。

2025年4月、環境省は家庭から排出されるすべてのリチウムイオン電池について、市町村による分別・回収方法等の適正処理に関する方針を示しました。自治体や企業はどのように取り組みを進めているのでしょうか。

三菱総合研究所は環境省の事業の一環として、神戸市と守谷市のローソン店舗でリチウムイオン電池を使用したモバイルバッテリー、加熱式たばこ、携帯電話の3品目を回収する実証実験を設計し、運営に携わっています。

「リチウムイオン電池の回収をまだ行っていない自治体もあり、近くに出す場所がない!という方もいると思います。コンビニなど身近な場所での回収は以前からニーズが高かったのですが、これまで限定的な方法でしか実現できませんでした。今回、温度センサーと重量センサーのついた回収ボックスを用いることで、24時間営業のフランチャイズ店でも安心して回収できるようになりました」(葦津さん)

発火事故防止を目指し、使用済みのリチウムイオン電池内蔵製品の店頭回収を開始|ローソン公式サイト

正しい捨て方を周知する取り組みも進められています。環境省では Jリーグおよび自治体と連携し、リチウムイオン電池による火災防止キャンペーンを実施。試合会場でリチウムイオン電池について学べる「間違い探し」や周知啓発するパネルの展示、アンケート調査を行いました。一部の試合会場ではモバイルバッテリーを回収し、来場者へ適切な廃棄の重要性を呼びかけました。

Jリーグとの連携協定を用いた周知 - リチウム蓄電池関係 | 環境再生・資源循環 | 環境省.

リチウムイオン電池を社会で安全に活用していくには、さまざまなプレーヤーによる協業が必要です。メーカーは安全な製品設計と分かりやすい表示を。小売事業者は販売時の説明と店頭回収の促進を。自治体は安全で確実な回収を。生活者はメーカーなどの注意喚起を理解し、捨てるときには正しい分別を。製品のライフサイクルの中でそれぞれが役割を果たし、お互いに連携していくことが求められています。

 

捨てる先の未来を考えること

ビジネスでもリチウムイオン電池は大いに期待されています。例えば、EVや再生可能エネルギー。小型かつ1度の充電で長距離を走れるリチウムイオン電池は、EVの普及と発展に不可欠です。太陽光発電では、日中の豊富な電力を夜間に放出するための蓄電池として活用されています。

さらに注目なのは「都市鉱山」としての可能性。リチウムイオン電池にはニッケル、コバルト、マンガンといったレアメタル、銅やアルミニウムなどが含まれています。これらの資源はさまざまな電子機器や先端技術の開発に必要ですが、将来的に供給不足も懸念されています。

「一つひとつの製品に含まれる資源の量は少ないのですが、たくさん集まると大きな価値を持ちます。効率的な回収の仕組み、再資源化の技術が確立されていけば、もっと活用が進むはずです」(藤井さん)

リチウムイオン電池を安全に回収・処理するための技術開発も進んでいます。2024年4月、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、廃棄されたリチウムイオン電池の検知・回収システムに関する研究開発に懸賞金を供するコンテストを実施。三菱総合研究所はその企画運営事務局を担いました。誤ったごみ区分に紛れ込んだリチウムイオン電池を検知する技術、回収したリチウムイオン電池を放電・発火能力を無効化して安全なリサイクル資源にする技術などを公募。採択された研究開発の事業化を推進する取り組みです。

「NEDO懸賞金活用型プログラム」第2弾「NEDO Challenge, Li-ion Battery 2025 発火を防ぎ、都市鉱山を目指せ!」公募開始廃リチウムイオン蓄電池の検知・回収システムに関する研究開発を募集 | MRI 三菱総合研究所

「NEDO懸賞金活用型プログラム」第2弾「NEDO Challenge, Li-ion Battery 2025/発火を防ぎ、都市鉱山を目指せ!」コンテストを開催 | NEDO

正しく分別・回収することは私たちの安全を守るだけでなく、企業や自治体の努力を支えることにもなります。大切な資源が次の製品づくりにもつながっていく。これはリチウムイオン電池に限らず、さまざまなモノに共通することです。

「リチウムイオン電池をめぐる課題は、モノを捨てた後の世界には誰がいて何が起きるのか?を考えるきっかけになるはず。ごみは捨てたら終わりではないこと。捨てた後の被害に誰かを巻き込まないこと。そこに想いを馳せてほしいです」(葦津さん)

地球にいいことをするといった言葉より、捨てる先の未来をリアルに考えることが私たちの行動を変えるのかもしれません。モノを買うときは、ぜひ同時にその捨て方も考えてみませんか?それは誰かの安全を守り、持続可能な社会を築くことにつながります。

〈記事の話を聞いた人〉
三菱総合研究所 GX本部 サーキュラーエコノミーグループ
葦津紗恵
リチウムイオン電池、プラスチックリサイクル、食品ロスなどサーキュラーエコノミー全般に携わる。中学生のときにリオデジャネイロの環境会議で子どもたちが発信するメッセージを見て、「地球上のみんながハッピーになれることに貢献したい」と思い、大学で環境経済学を専攻。

 

三菱総合研究所 GX本部 サーキュラーエコノミーグループ
藤井大河
大学では材料工学を専攻し、金属のリサイクルについて研究。入社後はリチウムイオン電池や太陽光パネル、金属素材分野の調査・研究を担当。小学生のとき、家の近くで綺麗な石を見つけた経験から鉱物に夢中となり、石の標本セットを宝物にしていた。琵琶湖が好き。

 

企画・構成:広報部、まる、エクスライト
取材・文:上條弥恵/エクスライト、皆本類
編集:広報部

会社情報
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本社所在地
東京都千代田区永田町二丁目10番3号
代表
代表取締役社長執行役員 籔田 健二
社員数
4,573名(2024年9月30日現在、単体1,202名)
設立
1970年5月8日
資本金
63億3,624万円