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企業は「社会課題リスト」をどう使うのか?NTTデータと三菱食品の先行事例

2026/03/10

社会課題への取り組みは、もはや企業にとって選択肢ではなく「前提」になりつつあります。では、山積する社会課題のどの領域に注力し、どうビジネスにつなげていくのか?そこに頭を悩ませる企業も少なくありません。

三菱総合研究所の「社会課題リスト」は、イノベーションによる解決が期待される課題を7領域30テーマに整理し、技術や政策の動向、最新事例などを提示しています。これを実際に活用する企業は、社会課題リストのどこに着目し、どんな価値を見出しているのか?

CR部 未来共創グループの八巻心太郎が、社会課題起点の事業共創に挑戦するNTTデータ ライフデザイン 谷口祐美さんと健康志向など多様な消費者ニーズに応える三菱食品 地頭所裕美さんに、その実践知を聞きました。

 

社会課題リストを活用した理由

「社会課題リスト2025」とリーフレット

 

八巻 なぜ、社会課題リストを活用されたのでしょうか?

谷口 NTTデータでは、主に私が所属していたソーシャルデザイン推進部で活用してきました。ビジネスとして取り組むべき社会課題の洗い出し、課題設定を行うため、2022年から使っています。生活者起点で取り組むべき社会課題に向き合おうという話になったのですが、各領域の専門性や知識にばらつきのあるメンバーが集まってアイデアを出すには限界がありました。課題の背景や現状について一定のインプットをした上で、自分たちの事業と社会課題をどう掛け合わせるか。それを整理する際にかなり助けられました。

地頭所 三菱食品では、食品や環境分野における社会課題の分析に活用しています。当社も生活者を起点に課題を捉えているため、網羅性のある社会課題リストをとても重宝しています。

 

自社の課題認識をステークホルダーと共有

三菱食品 経営企画本部 戦略研究所 地頭所裕美さん

地頭所 当社は小売の事業者に対し、地域性に合わせたお店づくりや品揃えの支援をしていることから、非常にマーケティングに力を入れています。同時に、生活者が買い物する時点の行動を研究するだけでなく、その裏側にある暮らしも研究しようと目線を拡大してきました。そこで社会課題リストを活用し、人々の暮らしや地域社会に潜む課題を捉えながら分析を進めています。

八巻 具体的にどのように活用しているのでしょう?取り組みについて教えてください。

地頭所 当社では年に一度、ステークホルダーに向けた展示会「三菱食品ダイヤモンドフェア」を行っています。商品のご案内が大きな目的ですが、同時に、生活や社会に関する研究や自社の課題認識をイントロダクションとして紹介しています。お取引先の幹部をはじめ、毎年皆さまからご期待いただいている展示会の一つの顔とも言えるコーナーです。その検討にあたり、羅針盤のような役割となったのが「社会課題リスト2023」でした。

八巻 私も伺いました。

地頭所 ありがとうございます。2024年は社会課題を起点とする発信と展示をしようと、食品・環境分野を中心に食品流通を取り巻く社会課題を12のテーマに整理しました。2023年の秋から年明けまで、ずっと社会課題リストと向き合っている状態でしたね。信頼性の高いベース資料として活用できよかったです。

三菱食品の「サステナブルリング」

八巻 「サステナブルリング」を展示されていましたね。

地頭所 そうですね。食に関するサプライチェーンにある物事に課題を当てはめ、キーワードは食品流通業界に親和性のある言葉にリデザインさせていただきました。

八巻 社会課題リストをまさに自分ごととして取り込んでいただいているなと感じました。

 

優先度が低くなっている課題に着目

NTTデータ ライフデザイン 経営企画本部 谷口祐美さん

谷口 当社の場合は社会課題リストを参考に課題を選び、その中の一つとして「介護」を新規ビジネスの立ち上げテーマとして検討しました。ICF(未来共創イニシアティブ)のイベントで出会ったケアプロさんと連携し、ワーキングケアラーの介護と仕事の両立を支援する会社を立ち上げたところです。

未来共創イニシアティブ~プラチナ社会を実現~

八巻 ワーキングケアラーとは仕事をしつつ、家庭で介護も担っている状態の人ですよね。なぜ、この領域に着目したのでしょうか?

谷口 仕事と育児の両立に向けた企業の動きは、すでに整備されていると感じます。世の中でイクメンなんて言葉が流通したり、企業の経営課題として優先度が高いのは明らかですよね。一方で、介護は改正育児介護休業法の施行など行政の対応も進んでいますが、企業がまだ従業員の介護状況などを十分に把握できていないなど、課題として優先度が低い傾向にあります。

また、最近は親世代の晩婚化が進んだ影響で、その子世代が介護に取り組む年齢も少しずつ若年化しています。40代など働き盛りで社内の責任ある立場になったり、部下ができたりすることも多い。従業員にとっては社内に介護をサポートする制度や福利厚生があっても利用しづらく、制度が形骸化しているケースがほとんどです。

地頭所 その年代は親の介護に加え、子どもの養育にもまだまだ時間を割かねばならない方が多い印象です。まさに私自身も晩婚晩産なので、親にも子にも目を向けなければならない最中にいると感じます。施設へ入所するにも家族内で意見が分かれる場合も多いですよね。

谷口 そうですよね。働き盛りの年齢で、子どもの養育と親の介護の両方が必要になっています。誰に負担がかかるのか?と考えると、介護という領域はシニアだけの課題ではありません。

八巻 介護負担を軽減する意味では、病院の付き添いや家事代行のサービスなども徐々に拡大している印象です。

谷口 そうですね。サービス自体は素敵なものがすでにたくさんあります。ただ、介護する側の負担になっているのは、そんなたくさんのサービスを自分で調べ、選び、それぞれ契約して利用しなければならない点だと思っています。

NTTデータ ライフデザインの新規事業 「ケアラケア」サービス構想

新規事業ではこれまで連携していなかったサービスを「つなぐ」ことで新しい価値を提供していくことを目指しています。企業の制度対応などを機会にサービス展開し、従業員個人へのサービスにつなげるBtoBtoCのビジネスモデルです。まずはNTTデータ、NTTグループから始めて、徐々に拡大したいと考えています。

ワーキングケアラー支援事業「ケアラケア」を始動

 

社会課題に対する「バランス感」の大切さ

八巻 お二人とも、ありがとうございます。ちなみに社会課題に関するレポートは他のコンテンツも見られていますよね?それらと社会課題リストの違いなどはありますか?

谷口 地頭所さんもおっしゃった通り、網羅性の部分ですね。社会課題リストを参考にし始めた時期は、ちょうど環境配慮系の社会課題がトレンドに上がっているタイミングでした。そうすると社会課題のレポートはトレンドに寄りがちな部分があると思うのですが、社会課題リストは広く分野をカバーしつつ、テクノロジーの領域も意識されていました。

地頭所 私もさまざまな企業が出しているレポートを拝見、比較し、最もバランスがよいのは社会課題リストだと感じます。現在の社会課題と言えば、一番にSDGsが挙がると思いますが、日本のビジネスにおいてはやや距離を感じるものなのですよね。SDGsは課題のトピックをビジネスに引き寄せづらいことがありますが、社会課題リストはビジネス目線で考えを広げられるテーマが多いと思います。

谷口 NPO的な課題の持ち方だと、ビジネスへの応用が難しい場合がありますよね。社会課題リストはビジネスでの活用を視野に、課題に対して最適な芯の取り方をしている印象です。課題が漠然としていても具体的なアイデアにつながらないですし、ピンポイントで解決の方向性まで明らかに示されると、短絡的なサービス開発の起点になりかねません。社会課題リストは、課題の周辺にある要因までも含めて整理されているのでアイデアを膨らませやすいです。

「社会課題リスト2025」より

地頭所 日本という土壌でビジネスする企業としては、「日本の課題を知る」という意味でバランスのよさを感じます。おそらくですが、三菱総研は国や自治体などの公共セクターと関わることが多いがゆえ、日本の課題に対するアンテナの張り方や視野が広いのだと思います。そこに「事業性」のフィルターも効かせていることが、ビジネスマンがバランスのよさを感じる理由ではないでしょうか。

八巻 官公庁との関わりが多いので、国の課題感を理解しながら進めていく部分はありますね。そこにビジネスの目線、アプローチをいつも意識しています。

 

「共創」の流れを加速する

ICF(未来共創イニシアティブ)の主な活動内容

八巻 今後、社会課題リストやICFに望むこと、期待することを教えてください。

地頭所 社会課題リストでは、改訂の際にどの項目が削除され、追加されたのか?という変遷が分かると嬉しいですね。過去の社会課題のキーワードを一覧して振り返ることで、気づきが生まれ、新たなアイデアにつながることもあるのでは。2025年の展示用の課題を整理する際、以前の社会課題リストに掲載されていた課題が頭に残っていたことで、入れられたキーワードなどもありました。

谷口 私はICFの勉強会などに参加し、企業によって課題の捉え方や考え方が多様であることを実感しました。非常に面白かったです。今後もそういった機会をいただけたらなと思います。

八巻 そうですね。7領域(エネルギー・環境、食農、モビリティ、レジリエンス、ウェルネス、教育・人材育成、DE&I)すべてにおいて、具体的に共創の可能性を語れる段階まで詰められていませんが、社会課題リストを上流に置きながら、事業共創の流れを加速していけたらよいなと考えています。

地頭所 企業は大きくなるほど新規事業に求めるスケールも大きくなるので、企業同士の共創はすぐにはまとまらないという現実があるかもしれません。ICFのディスカッションは、そういった共創の歩みに無理な追い込みをかけないというところも非常によい部分です。誰かの心に「共創のもとになる種火」をつけて回る活動。そんなふうに感じています。

八巻:社会課題リストを中心に据えたICFの活動が、共創や新規事業の起爆剤になればと考えています。より若い世代にも目を向けると、社会課題リストは就職活動や探究学習でも活用いただいています。自分が社会と向き合うために、どの分野に目を向けるとよいか?どの分野を勉強したらよいか?という指標になると嬉しいですね。

社会課題リストは単なる情報源ではなく、私たちが新しい問いを生み出すための「共通の言葉」と言えるかもしれません。多くの人が垣根を越え、それぞれの知を持ち寄って対話することで、課題に対するアイデアがより豊かに広がっていくことを願っています。

企画:CR部、広報部
協力:アンティル
文:草井理菜
写真/編集:広報部

会社情報
株式会社三菱総合研究所
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本社所在地
東京都千代田区永田町二丁目10番3号
代表
代表取締役社長執行役員 籔田 健二
社員数
4,573名(2024年9月30日現在、単体1,202名)
設立
1970年5月8日
資本金
63億3,624万円