意外!と思われるかもしれませんが、シンクタンクやコンサルにも「現場」で仕事をする機会は色々とあります。例えば、三菱総合研究所の先進技術・セキュリティ本部では「無人運航船の社会実装」というプロジェクトに取り組んでいます。入社4年目で、さまざまな現場を経験している加藤あかりさんに話を聞きました。
TOPの写真は、20時間乗っていたRORO船(川崎近海汽船/第2ほくれん丸)
三菱総合研究所が参加する無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」にて無人運航システムの実証実験を実施 | MRI 三菱総合研究所
日本財団の無人運航船プロジェクト 社会実装に向けた第2ステージに参加 | MRI 三菱総合研究所

― まずはどんな仕事なのか、教えてください。
無人運航船は、船を自動運航するための大きなシステムを開発しているプロジェクトです。日本を代表する船舶メーカーや気象予報の企業などがコンソーシアムとして集まり、全部で4隻の運航船の実証を進めています。
― プロジェクトでやりがいを感じるところは?
まず、船長や関係者の皆さんと直接お話できることです。それから、実際にコンソーシアムで議論した内容が国土交通省の検討資料に掲載されることもあります。政策や国際標準を考える現場にいると実感できるのは「すごい」と思っています。世界でもここまで大掛かりに取り組んでいるプロジェクトは少なくて、日本では先頭を走っていると思います。
― 貴重な経験ですね。海外出張にもよく行かれると聞きました。
海外出張では打合せやカンファレンスに参加しています。日本からプロジェクトを背負って行くと、色々な国で似たような実証をしている人たちに声をかけてもらえ、世界からも注目されているプロジェクトなのだと感じることができました。
― 海外の無人運航船はどんな状況ですか?
無人運航船のシステム開発は、ノルウェーをはじめとするヨーロッパ、韓国などでも進んでいます。ただ、国際条約で無人運航船の扱いが定まっていないので、どの国も法整備ができていないのが現状です。ヨーロッパでは運河や河川における物流の実証・実用化が進んでいますが、いま日本でやろうとしている海洋での運航船はこれからという状況です。
― 社会課題に向き合い、結果を出していくプロジェクトですよね。これまでの経験で学んだことはありますか?
実際に大きなシステムが開発される過程を自分の目で見るのが初めてだったので、そこがまず貴重な経験でした。また、社会実装を検討する上でさまざまな方にヒアリングできたことで、課題を現場でリアルに捉えることの大切さを知りました。

― 加藤さんは具体的にどんな仕事をしているのですか?
実証支援で、瀬戸内海を走るフェリーとRORO船(トラックやトレーラーが自走で船に乗り、貨物を積載したまま運搬できる貨物用の船舶)の2隻を担当しています。プロジェクト管理としては、複数のワーキンググループを担当し、進捗や動向などを確認しています。社会実装の観点からは、無人運航船も自動運転のクルマと同じように責任の所在や保険などの検討が必要なため、事故が起こった際の法的責任について、法律事務所や保険会社の方々と議論をしています。
― 無人運航船の社会的な意義、未来をどう考えていますか?
足元の課題は、内航船の船員不足です。それから、日本の離島ではこの航路しか住民の移動手段がないというエリアも多く、そこはほとんどが赤字です。国からの補助金で航路を維持していますが、このままでは維持し続けられないという課題意識を持っています。地域でよく聞くのは「フェリーの最終便が早くて、街でお酒を飲んで帰れない」という悩み。そういった場所に遅くまで運航する船があれば、暮らしの不便や不安を解決することにもつながると思います。
― 離島の課題解決に、無人運航船はニーズがありそうですね。
瀬戸内海にはインバウンド客も来ています。たくさんの島と港があるので、周遊ルートで観光したい方も多いのではと思います。ただ、ホテル側も個別に船を出すような人手はないし、海上タクシーの利用にも限界があります。であれば、小型船を無人化することで、観光客がアイランドホッピングできるかもしれない。また、無人船自体が「観光資源」にもなるんじゃないか?と個人的に思っています。
― 地域の方々は、どんな想いや期待を持っているのでしょう?
ワークショップを年に2回くらい開き、高松、岡山、小豆島のステークホルダーの皆さまにインタビューをしています。「無人運航船のいま目の前にある課題」「無人運航船に期待すること」「無人運航船が導入されたら、こんなことができるんじゃないか?」というテーマを話し合いました。
例えば、船に図書館を乗せて移動させようという話が出ました。移動手段だけでなく、新しい機能を船に載せて移動させてみては?という発想です。すると、船の上で何かを栽培できないか、瀬戸内海は天気もいいし!といった話も…。

― 面白いですね。新しいことを始めると、反対する人もいそうですけど。
まず、無人運航船って本当に安全なの?という話はよく聞かれます。また、船の荷下ろしにはどうしても人手がいるし、運航だけを省人化しても、必要な人員や仕事量って減りませんよね?という声もあります。システムがあっても船員がいなくなると、乗客の心理的な負担が増えないか?といった厳しい指摘も…。こうした声を聞きながら、コンソーシアムでは議論をしています。でも「無人運航船は便利ですよね」という声が実はほとんどです。
― 少し話は飛びますが、海賊に襲われるとか、波が高くて荷物が海に落ちたときはどうやってリカバリするのでしょうか?
完全無人の状態(システムが運航機能すべてを担い、乗組員がいない船舶)なら、人が乗っていなくて、人損がなくて良かったねという考え方です。省人化した船舶(基本的な運航をシステムが担い、船上に乗組員がいる)の場合は、無人運航システムにより安全性が高まり、転覆などは起きないという想定ですが、非常時にはすべてのシステムの動作を止め、乗船している船員が手動で航行するということになります。
― 色々なシチュエーションがありそうですね。無人運航船は外から見た目で分かるのでしょうか?
分かったら、海賊などのリスクに合う可能性があるかもしれません。そのテーマは議論していますが、おそらく結論は出ないのではないかと思います。また、向こうから来る有人船がこちらを無人船と認識し、通常より大回りで避けてもらうような負担を求めるべきではないといった議論もあります。

― 入社4年目でさまざまな経験をされていますが、 シンクタンクの仕事に向いているのはどんな人だと思いますか?
社内には知ることと考えることが大好きで、理解も早い人が多いと日々感じます。業務には必ずしも純粋な連続性はなく、突然、未経験の分野に携わる機会もあります。そんな時も自分から手を動かし、理解しにいける人が向いていると思います。
私もPCの前で2時間唸っていても脳が切り替わらない、課題に対して具体的な検討イメージが湧かないときは、現場に行った方が早いなと思います。何ごとも実物を見に行き、現場のリアルを知ること。できるだけ、外の世界を向いていくことが大事だと思っています。
― 三菱総合研究所は社会課題の解決を目指し、さまざまなプロジェクトに取り組んでいます。当プロジェクトでは、無人運航システムの社会実装のモデル検討、プロジェクト管理を行っています。船舶の自動化・無人化技術は、海運における労働力不足の解消や労務負担の軽減、海難事故の防止、離島航路の維持などの社会課題解決につながります。ご関心のある方は、ぜひ当社リリースやコラムを読んでいただけると幸いです。
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〈記事の話を聞いた人〉
三菱総合研究所 先進技術・セキュリティ事業本部 フロンティア戦略グループ
加藤あかり
大学時代は法学部で政治理論に興味を持つ。公共政策大学院を経て入社。趣味は旅行、モスクと南欧の雰囲気がお気に入り。

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