企業研究は真理探究ではなく成果創出。数字・収益・安全を軸に、研究を社会実装へつなぐビジネス視点の現実を解説。
「研究職って自由に好きなことを研究できるんでしょ?」
もし君たちがそう思っているなら、企業研究の現実を知った瞬間に、足元が崩れ落ちるだろう。
大学の研究室で「なぜこの現象が起きるのか?」を追求してきた君たちにとって、企業研究の世界は別の惑星だ。ここでは「なぜ?」ではなく「どうやって儲けるか?」が全ての出発点になる。
大学 = 「真理探究」、企業 = 「成果創出」
この違いを理解せずに企業研究に飛び込むと、大きなギャップに苦しむことになる。しかし、その背景を知れば、企業研究の意義と面白さが見えてくる。
文部科学省・科学技術・学術政策研究所の調査による超大企業の研究開発実態を見てみよう。そこで明かされたのは、容赦ない現実だ:
「最終出口成果に至る確率として各年度単位で30%程度を維持することを管理指標とする民間企業が多い」
つまり、研究プロジェクトの7割は失敗前提で管理されている。
しかも:
大学のように「面白い発見だった」では通用しない。「これで会社は儲かるのか?」が全てだ。
同調査から見えてくる企業研究の評価基準は明確だ:
大学での「論文の被引用数」や「学会での評価」とは全く違う世界で戦うことになる。
企業研究では人件費・設備費の配分を常に意識しなければならない。科学技術・学術政策研究所の実態調査では、研究所の運営について衝撃的な事実が判明している:
「研究費を回収することが義務付けられているために、工場からの研究依頼を受諾する場合があり、研究費回収が十分でない場合には研究所組織が縮小となる場合がある」
つまり、研究所も「利益センター」として運営されている。事業部門から研究開発費の50%以上を回収する企業も存在し、回収できなければ人員削減という現実がある。
製造現場につながる研究では、安全基準は絶対的だ。研究段階での安全性確認を怠れば:
大学の実験室レベルの「安全意識」では通用しない。
顧客の信頼に直結する品質管理では:
「実験では上手くいきました」では話にならない。
どれだけ技術的に優れていても、市場価値がなければ無意味だ。売上高研究開発費比率の業界平均は:
この範囲内で確実に利益を生み出す研究でなければ、継続は許されない。
企業研究の最重要任務は、既存事業の競争力向上だ。これは地味に見えるが、実際には:
これらが会社の屋台骨を支えている。
知的財産戦略は企業研究の生命線だ。特許庁の調査によると、特許活用による事業貢献を評価するKPIを導入する企業が増加している。
イノベーション創出は企業研究の花形だが、現実は厳しい。
経済産業省の調査では:
この確率の中で確実に成果を出すことが求められる。
科学技術・学術政策研究所の調査では、超大企業の研究期間の実態が明らかになっている:
「研究開発の到達目標を明確にし、結果評価を行う計画期間は1年単位の積み重ねとなるが、出口成果に至るまでには10年の期間に渡って継続される取り組みが行われる」
短期的成果と長期的視点の絶妙なバランスが要求される。
企業研究では「新しい技術」も検討するが、リスク管理が大前提だ。
実際の開発現場では:
「世界初の技術を開発したい」という研究者の夢は、「確実に利益に結びつくか」という現実の前で砕かれることが多い。
科学技術・学術政策研究所の調査によると:
「応用研究の結果である実用化へつながる見込みが出来た技術に基づき進める実用化開発着手から、実際に安定的に使える技術を確立するまでに、通常5年から7年を必要とする」
つまり、「技術ができた」から「商品化」までには、さらに5-7年かかるのが現実だ。
確かに企業研究は制約が多い。しかし、それゆえの面白さと価値がある:
大学とは違うが、「原理原則を探求し活用する」という本質は共通している。
企業研究者の使命は、「学問的真理を社会価値に変換すること」だ。
これは:
の役割を担うことを意味する。
「研究=自己満足」では許されない代わりに、「研究=社会貢献」という明確な意義がある。これこそが企業研究の最大の魅力なのだ。
研究の舞台は違っても、社会をより良くしたいという研究者の本質的な想いは変わらない。その想いを「確実に社会実装する」のが企業研究の存在意義なのである。