【コース3-1-1】働く意味と経済活動の本質|ステップ学習『就活前のそもそも』
「働きたくない」の正体を理系視点で解剖。技術が経済を動かす本質と、研究室の外で広がるリアルな世界を知る。
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記事概要
「働きたくない」と言いながらも、いずれ社会に出る理工系の君たちへ。君たちが開発する技術やシステムこそが、現代の経済活動の根幹を支えている事実、知っているだろうか。この記事では、理系が避けがちな「お金」「経済」「労働の意味」を、データとリアルな声をもとに本音で語る。研究室では教えてくれない、働くことで見える世界とは何か。稲盛和夫の成功方程式も理系的にひもとき、キャリア形成に本当に必要な視点を提示する。
はじめに――理系の君たちへの本音トーク
理工系のみんな、正直に話そう。多くの学生は「働く」ことについて、まだ見えていない部分がある。
深夜まで実験データと格闘し、論文を書き、学会発表をこなす。一方で「就活? 面倒くさい」「働きたくない」「研究のほうが楽しい」と口にする気持ちも、よくわかる。知的探求に没頭できる環境は、たしかに魅力的だ。
でも、少し周りを見渡してみてほしい。君たちが使うスマートフォン、研究に欠かせない高精度の測定器、快適な実験環境をつくる空調システム――それらは、誰かが「働いて」つくり上げたものだ。
【フェルミ推定:スマートフォン1台に関わる人数】
君たちが手にしているスマートフォン1台をつくるために、どれだけの人が関わっているだろう。
- 部品・材料製造:約1,500個の部品、約70種類の材料 → 約50万人
- 製造装置・設備:200種類の製造装置とメンテナンス → 約10万人
- 組み立て・品質管理:最終製造と検査 → 約6万人
- 設計・開発:ハード/ソフト/研究開発 → 約15万人
- 流通・販売・サポート:物流、販売、カスタマーサポート → 約60万人
総計:およそ140万人が1機種のスマートフォンに関わっている。
つまり、君たちが「当たり前」に使うスマートフォンには、140万人の「働く」技術と努力が詰まっている。しかも、その多くは理工系の技術者たちだ。
※フェルミ推定とは:すぐに正確な数値がわからない事象について、入手しやすい情報をもとに論理的に推論し、概算値を求める方法。物理学者エンリコ・フェルミに由来する。

「働きたくない」は本音? それとも逃げ?
「働きたくない」という言葉の裏側には、何があるのか。心理学的に見ると、「不安からの逃避」である場合が多い。
💭 理工系学生が抱きがちな不安
- 技術的なやりがいを感じられるかわからない
- 研究環境と違って、利益追求が最優先になりそう
- 人間関係や組織の政治に巻き込まれたくない
- 転勤や配属ガチャで人生が左右されそう
【統計で見る現実】
『2024年卒就職白書』では、学生の約80%が「初期配属の確約」を望んでいる。専門性と配属のミスマッチを恐れるからだろう。
ここで、少し視点を変えてみよう。君たちが「面白い」と感じる研究は、突きつめれば社会の課題解決そのものじゃないか。研究室で磨いた技術や思考は、製品やサービスに実装され、社会に作用してはじめてフルスペックで機能する。
経済活動の本質を理解せよ ― 君たちの技術が価値を生む
💰経済活動とは何か?
多くの人が「お金儲け」や「利益追求」だと思いがちだが、それは本質ではない。
そもそも「経済」という言葉の語源を知っているだろうか。
「経済」は、隋・唐の時代(6~7世紀)の儒者・王通が著した『文中子』という古典に登場する「経世済民(けいせいさいみん)」という言葉に由来する。「世を経(おさ)め、民を済(すく)う」という意味で、すなわち経済活動の本来の目的は「社会を治め、人々を救うこと」なのだ。
【経世済民の本質】
経世済民とは、儒教思想に基づく概念で、優れた統治によって世を治め、人民の苦しみを救うという考え方を指す。
現代に置き換えれば、技術や事業を通じて社会課題を解決し、人々の生活を豊かにすることこそが、真の経済活動といえる。
現代の経済活動も本質は変わらない。
簡単にいえば「価値の創造と交換を通じて社会課題を解決すること」であり、その中心にいるのが理工系人材だ。
ただし、現実には経済活動が「マネーゲーム」と化している側面もある。
株価操作、投機的取引、短期的な利益追求、利益優先の自然破壊――これらは経世済民の精神から遠ざかった行為だ。
理工系の君たちが目指すべきは、技術を通じた真の価値創造である。
考えてみてほしい。
Google、Apple、Tesla、NVIDIA――世界を変えた企業の創業者たちの多くが理工系のバックグラウンドを持っている。彼らは技術を通じて社会課題を解決し、その成果が経済価値となった。
経世済民の精神に基づけば、社会的公益性と経済活動は対立するものではない。
むしろ、真の価値創造は社会課題の解決から生まれる。
そして、その実現の中心にいるのは、技術者――つまり君たちだ。
📚技術で「経世済民」を実現する具体例
- 情報系:AIアルゴリズム開発 → 医療診断精度向上・早期発見 → より多くの命を救い、医療格差を解消 → 経世済民
- 機械工学系:ロボット・自動化技術 → 製造効率化・危険作業の代替 → 労働者の安全確保と生産性向上 → 経世済民
- 電気電子系:省エネ・再生可能エネルギー技術 → 環境負荷軽減・エネルギー安全保障 → 持続可能な社会基盤の構築 → 経世済民
- 化学・材料系:新素材・バイオマテリアル開発 → 製品性能向上・環境調和型製品の実現 → 生活品質向上と地球環境保護 → 経世済民
- ライフサイエンス系:遺伝子解析・再生医療・創薬技術 → 病気の早期発見・治療法の革新 → 健康寿命の延伸と医療資源の効率化 → 経世済民
📋企業が理工系人材を求める理由
リクルートの『就職白書2024』によると、2024年卒の大卒求人倍率は1.71倍。
特に従業員300人未満の企業では前年比11.6%増と大きく伸びた。技術革新やDX推進の必要性から、理工系人材への採用意欲は堅調に推移している。なぜなら、技術が企業の競争優位そのものだからだ。
ここで重要なのは、君たちが「どんな経済活動に参加するか」という選択だ。
マネーゲームに走る企業か、それとも経世済民の精神をもって社会課題解決に挑む企業か。
技術は中立だが、技術者の選択は中立ではない。
君たちが選ぶ働き方、関わる事業、開発する技術が、「世を治め、民を救う」ことにつながるのか――それとも、単なる利益のための道具となるのか。
その選択権は、君たち自身の手にある。

働くことで見える世界 ― 研究室では分からないリアル
研究室は確かに知的刺激に満ちている。
でも、それは同時に「箱庭」の世界でもある。
実際に働くことで見える世界は、もっと複雑で、もっとダイナミックで、そして、もっと“人間的”だ。
働くことによって得られるのは、単なる給与や経験ではない。
それは、研究室の中ではなかなか身につかない「3つの力」だ。
🏢 働くことによって得られる「3つの力」
スケール感覚 ― 社会に影響を与える視点
研究室:「この実験が成功すれば論文になる」
実社会:「この技術が実用化されれば、100万人の生活が変わる」
研究ではミクロな現象を深く掘り下げる一方で、仕事ではその成果がマクロな社会の変化を生む。
自分の技術が“誰のどんな課題を変えるのか”を実感できるようになる。
制約条件の理解 ― イノベーションを生む現実感
研究室:「理論的には可能」
実社会:「コスト、時間、法規制、ユーザビリティを考えると現実的な解は…」
社会では、理想だけでは動かない。
だが、その“制約”こそが本当の創造を生み出す。
制約の中で最適解を導く思考こそ、技術者としての腕の見せどころだ。
多様な視点 ― 異分野と協働する力
研究室:同じ分野の研究者との議論
実社会:営業、マーケティング、法務、経理…さまざまな専門家との協働
社会での技術開発は、ひとりの天才ではなくチームで進む。
異なる専門性と価値観が交差する現場でこそ、君たちの技術が本当の意味で磨かれていく。
【先輩の声:大手電機メーカー・開発職】
「研究室では『動けばOK』だったが、製品開発では『10年間壊れない』『大量生産できる』『コストは研究機レベルの1/100』という制約がある。この制約こそが、本当のイノベーションを生む。制約があるからこそ、創意工夫が生まれる。」
研究室で得た知識や理論は、社会で“生きた技術”へと進化する。
そこには、理論を越えた責任感と、技術者としての誇りがある。
研究室の外には、技術を社会に生かすリアルな現場が待っている。
次節では、そのリアルにどう向き合い、どんな未来を描くのかを探っていこう。
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