稲盛和夫さんの成功方程式から学ぶ ― 就活と採用選考、そして人生で差がつく部分
稲盛和夫さんという人物を知っているだろうか。
京セラを一代で世界的企業に育て上げ、KDDIを創設し、破綻寸前だった日本航空(JAL)をわずか2年で再建した「経営の神様」と呼ばれる人物だ。
技術者出身でありながら経営の頂点に立ち、数々の偉業を成し遂げた稲盛さんが提唱した“成功方程式”がある。
人生・仕事の結果=考え方 × 熱意 × 能力
この方程式を、理工系的に分解してみよう。
能力(0〜100点):差がつきにくい要素
- 私たちの専門知識、プログラミング技術、数学的思考力など。これらはすでに高いレベルにある。
- 特に就職活動に臨む理工系学生は、一定の水準に達しており、この領域では大きな差はつきにくい。
熱意(0〜100点):個性が出るエネルギー
- 研究や日々の行動への情熱は人それぞれだ。
- とくに「働く」ことの意味を理解した上での熱意は、学生間でも大きな差を生む要素になる。
考え方(−100〜+100点):最も重要な変数
- ここが最重要だ。
- マイナスの考え方を持てば、どれだけ能力と熱意が高くても結果はマイナスになる。
- 極端な例だが、高い技術力と情熱を持った人がその力を悪用すれば、社会に害を及ぼすことすらある。
- 技術者の「考え方」は社会への影響力が大きい。だからこそ、最も重要なのだ。
仕事への「正しい向き合い方」
理工系人材にとっての「正しい考え方」とは、仕事への正しい向き合い方を指す。
- 社会貢献意識:自分の技術が誰のために、何のために役立つのかを意識する
- 責任感:開発した技術の影響を最後まで考える(副作用や悪用の可能性も含めて)
- 継続的学習:技術の進歩に合わせて学び続ける
- 協働の精神:他の職種や立場の人々と建設的に協力する
- 効率化の追求:楽をするためではなく、より良い価値を生み出すための効率化
- 誠実さ:データ改ざんや手抜きを絶対にしない
- 切磋琢磨の姿勢:仲間や競合から刺激を受け、互いに高め合う
- 成長への執念:現状に満足せず、常に上を目指して技術力と人間力を磨く
効率化と「楽をしたい」はまったく違う。
真の効率化は、短時間で良い成果を生み、浮いた時間でより価値ある挑戦に取り組むことを意味する。
一方、「楽をしたい」「ズルをしたい」という考え方は成長を止め、社会への貢献も遠ざけてしまう。
理工系学生によくある「マイナス思考」とリフレーミング
| マイナスの考え方 | リフレーミング |
|---|---|
| 利益追求は汚い | 利益があるからこそ、より良い挑戦ができる |
| 営業は技術を分かっていない | 技術を伝えることで、より良いものづくりにつながる |
| 経営者は現場を知らない | 現場の声を経営に伝える役割を果たせる |
| お金の話は下品 | お金があるから技術を継続できる |
稲盛方程式の肝は「掛け算」である。
足し算ではない。一つでもゼロがあれば結果はゼロ、マイナスならすべてがマイナスになる。
【稲盛和夫さんの言葉】
「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力。考え方とは生きる姿勢でありマイナス100点からプラス100点まであります。
考え方次第で人生や仕事の結果は180度変わってくるのです。
そこで能力や熱意とともに、人間としての正しい考え方をもつことが何よりも大切になるのです。」
採用選考で差がつく「掛け算の法則」 ― スパイシーな現実
ここからが現実的な話だ。
この成功方程式は、実はそのまま採用選考の方程式でもある。
企業の採用活動は「戦力になる仲間集め」。
プロ野球チームが選手を選ぶように、企業も長期的に成果を出す人材を求めている。
重要なのは「瞬発力」ではなく「持続力」だ。
考え方×熱意×能力の掛け算の値を、長期間にわたって維持し、伸ばし続けられる人が採用される。
採用選考のリアル
| 応募者 | 考え方 | 熱意 | 能力 | 総合値 |
|---|---|---|---|---|
| A君 | 70 | 80 | 90 | 504,000 |
| B君 | 60 | 95 | 85 | 484,500 |
| C君 | 80 | 70 | 85 | 476,000 |
→ A君が採用される。一方で、どれか一つが不明確な「ブラックボックス(N.D.=Not Determined)」状態になると、評価は著しく下がる。
N.D.状態の典型例
- 口先だけパターン:立派な言葉だが行動の裏づけがない
- 一般論パターン:教科書的な回答のみ、自分の経験が見えない
- 矛盾パターン:話と行動が一致しない
- 準備不足パターン:その場しのぎで、深掘りに耐えられない
採用見送りになるケース
| 応募者 | 考え方 | 熱意 | 能力 |
|---|---|---|---|
| D君 | N.D. | 90 | 95 |
| E君 | 75 | N.D. | 90 |
| F君 | 80 | 85 | N.D. |
一つでも「?」が残ると、企業にとってリスクが高すぎるのだ。
理工系学生によくある「採用見送りパターン」
- 考え方がN.D.:技術の話はできるが、社会にどう貢献したいか不明
- 熱意がN.D.:能力と考え方は良いが、本当にその会社で働きたいか熱意が伝わらない
- 能力がN.D.:専門分野は詳しいが、それ以外の応用力や学習能力が見えない
💡企業が本当に知りたいこと
- 価値観の合致:困難があっても理念に共感して頑張れるか
- 成長の持続性:学び続ける姿勢があるか
- チームワーク:協働を通じて成果を出せるか
- 困難への対処力:壁にぶつかっても諦めず立ち向かえるか
📋ブラックボックスを防ぐための3つの対策
- 考え方を明確化:なぜその技術分野を選び、何を実現したいのかを語る
- 熱意を可視化:行動で示す(インターン・自主研究・業界研究など)
- 能力を体系化:専門+汎用スキルをエピソードで裏づける
稲盛さんの成功方程式は、すなわち採用される方程式にもなる。
どれか一つでも欠ければ評価は下がるが、3つを明確に示せれば必ず伝わる。
【採用担当者の本音】
「技術力が高い学生は多い。でも、『この人と長く働きたい』『困ったときに頼れる』『理念に共感して一緒に成長できる』と思える人は限られている。私たちは、そんな仲間を探しているんです。」
これこそが理工系学生が就活で成功するための最重要ポイントだ。
単なるスキルアピールではなく、考え方と熱意の掛け算で“長期戦力”を示すこと。
人生で差がつく ― 成功方程式の真の意味
なぜ同じ大学・同じ研究室出身でも、10年後に大きな差がつくのか?
答えは、稲盛方程式の積算効果にある。
【人生は複利計算】
人生は銀行預金のような複利構造だ。
毎年少しずつでも成長を積み重ねれば、20年後には圧倒的な差になる。
- 年1%成長:1.01²⁰=1.22(+22%)
- 年5%成長:1.05²⁰=2.65(+165%)
- 年10%成長:1.10²⁰=6.73(+573%)
成長率のわずかな違いが、長期的には人生を大きく分ける。
1. 考え方 ― 人生のプレイスタイルを決める
考え方はゲームでいえば「プレイスタイル」。困難や挫折をどう捉えるかで、人生の軌道は変わる。
成長マインドセット vs 固定マインドセット
- 成長マインドセット:「この失敗から何を学べる?」「まだできないだけ」
- 固定マインドセット:「自分には才能がない」「やっぱり無理だ」
理工系なら、実験がうまくいかないときに「なんで失敗した」ではなく、「この結果の原因を探ろう」と思えるかどうか。
この差が技術者としての成長速度を決める。

2. 熱意 ― 持続可能なエネルギー
熱意はエンジンの馬力。
だが、どんな高性能でも燃料切れやオーバーヒートしては意味がない。
持続可能な熱意こそが力になる。
- 睡眠の質:徹夜は創造性を奪う
- 運動習慣:脳と体を健全に保つ
- 栄養バランス:エナジードリンク頼みでは続かない
- ストレス管理:休むことも技術のうち
熱意を保つには、自分を一つのシステムとして最適化する発想が必要だ。

3. 能力 ― 学び続けるチカラ
大学での知識は「初期装備」に過ぎない。
技術革新が絶えない時代に必要なのは、「学び続ける力」だ。
- T字型スキル:専門を深く、関連を広く
- メタ学習:学び方を学ぶ
- 実践的学習:学んだらすぐ試す
- 人から学ぶ:経験知を吸収する
- 失敗から学ぶ:失敗をデータ化して次に活かす

人生で差を生む「システム思考」
技術力が同じでも、自分自身をシステムとして見立て、改善し続けられる人が最終的に成果を出す。
「なぜこの結果になったか」だけでなく、
「なぜ自分はその可能性を見落としたのか」「次にどう改善するか」を考えられる人が、真の意味で成長する。
この「考え方×熱意×能力」の掛け算は、
就活にも人生にも通じる“普遍のエンジニアリング方程式”だ。
理系の君たちが、それを自分のキャリア設計にどう適用するか――そこに、未来を変える差が生まれる。

まとめ ― 理系だからこそ知っておくべき真実
最後に、理工系の君たちに伝えたい「3つの真実」がある。
これまでの話を貫く“核”の部分だ。
🔹 真実1:君たちの技術が社会を動かしている
現代社会のインフラや製品、サービスのほぼすべてに理工系の技術が関わっている。
通信、エネルギー、医療、交通、AI、環境――そのどれもが、理工系の力で支えられている。
君たちは、社会の基盤をつくる存在だ。
その自覚と責任を持つことが、技術者としての第一歩になる。
🔹 真実2:経済活動は技術の社会実装の手段
「お金は汚いもの」と思う人もいるかもしれない。
けれど、経済活動とは技術を社会に届けるための資源を循環させる仕組みだ。
優れた技術が正しく評価され、必要な人々に届くためには、資金・組織・市場といった経済の仕組みが欠かせない。
つまり、経済活動は“技術の社会実装を可能にするエンジン”なのだ。
🔹 真実3:働くことで、技術者として本当に成長する
研究室では「技術の可能性」を学ぶが、働くことで「技術の責任」を学ぶ。
現場では、コスト・納期・品質・安全・倫理など、無数の制約条件の中で最適解を導き出す力が求められる。
多様なステークホルダーと協働し、現実の課題を解決していく――それこそが、技術者の真の成長だ。
📊 理工系人材の需要は確に存在する
リクルートワークス研究所の『就職白書2024』によれば、2024年卒の就職内定率は96.8%。
理工系に限れば、実質的にほぼ100%に達している。
つまり、理工系人材を求めている企業は確実に存在する。
問題は、「働く意味」をどれだけ正しく理解できているか――そこに差が生まれる。
💡 技術は中立だが、技術者は中立ではいられない
技術そのものに善悪はない。
しかし、それをどう使うかは技術者次第だ。
君たちの選択が、自分自身の人生だけでなく、社会の未来をも左右する。
「技術者の仕事は、不可能を可能にすることではない。
制約の中で最適解を見つけ、それを社会に実装することだ。
それこそが“働く”ということの本質である。」
君たちの技術が、君たちの働き方が、この世界を動かす。
その事実を、いつまでも忘れないでほしい。
参考文献
- グロービス経営大学院 公式サイト
- リクルートワークス研究所『就職白書2024』(2024年4月24日発行)
- リクルートワークス研究所『ワークス大卒求人倍率調査(2024年卒)』
- キャリタス『2024年卒理系学生の就職活動(専攻分野別)調査』(2023年8月発行)
- 全国求人情報協会『2024年卒学生の就職活動の実態に関する調査』(2024年7月18日発行)
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