「自由な働き方」に正解はない。リモート・勤務地・社風の違いが、理系の成長速度と市場価値をどう左右するかをデータで解説。
「フルリモート可」「フレックス勤務」「フラットな組織」―就活サイトで踊る魅力的なキーワード。しかし、コロナ禍で導入されたリモートワークは、2025年に入って急速に撤回されつつある。ガートナージャパンの調査によれば、「リモートワークをまったく実施していない企業」はコロナ禍中の12.6%から2025年には22.6%へと約2倍に増加。逆に「全社員の50~80%がリモートワーク実施」という企業は49.3%から32.3%へと大幅に減少した。
「働き方改革」という言葉は美しいが、その中身は企業ごとにまったく違う。体育会系の上下関係が色濃く残る会社では、朝礼で気合を入れられ、先輩の指示は絶対。一方、フラットな文化を謳う会社では、入社1年目でも経営陣に意見を言える代わりに、自分で考え、自分で決め、その結果に責任を持つことを求められる。
「どっちが良い・悪い」という話ではない。問題は、自分がどんな環境で最も成長でき、最も力を発揮できるかを見誤ると、入社後に地獄を見るということだ。今回は、データと現場のリアルをもとに、働き方と職場文化の"本当の違い"を解剖する。
内閣府の調査(2022年)によれば、2019年時点での平均年収は、東京圏が551万円、地方圏が445万円と106万円の差がある。大阪・名古屋圏も529万円で、地方圏とは84万円の差だ。「やっぱり東京の方が稼げるじゃん」と思うかもしれないが、話はそう単純ではない。

東京の平均的な1Kの家賃は約8万円、地方なら4万円程度。食費や交通費も都市部の方が高い。手取りで考えれば、年収差106万円は生活コストの差でかなり相殺される。さらに、コロナ禍では都市圏の年収が20万円減ったのに対し、地方圏は8万円減に留まり、格差はやや縮小している。
しかし、見逃してはいけないのは労働生産性の差だ。地方圏の時給ベースの労働生産性は3.6千円、東京圏は5.2千円。この差は、「地方では労働生産性の低い仕事が増えている」ことを意味する。具体的には、医療・福祉など社会的に必要だが賃金水準の低い分野の雇用が地方で増加している。
つまり、地方で働くことは「生活コストは安いが、キャリアの選択肢と成長機会が限られる可能性がある」というトレードオフを抱えている。
理系学生にとって、業種選びは勤務地選びに直結する。製造業に進めば、工場のある地方都市での勤務が中心になる。化学メーカーなら千葉や四日市、自動車メーカーなら愛知や九州。一方、金融やコンサル、IT企業の多くは東京・大阪などの大都市に本社を構え、地方拠点があっても営業中心だ。
エンジニアとして最先端技術に触れたいなら、東京や大都市圏の企業の方が情報とチャンスが多い。しかし、ワークライフバランスを重視し、地元に根ざした暮らしをしたいなら、地方企業という選択肢もある。
大切なのは、「どこで働くか」は「どう生きるか」と直結しているということ。勤務地は福利厚生の一つではなく、人生のライフスタイルそのものを決める要素だ。
コロナ禍で一気に広がったリモートワーク。多くの企業が「これからはリモートが当たり前」と謳い、学生も「リモートできる会社=先進的」と考えた。しかし、2024年以降、流れは逆転している。
アメリカでは大手IT企業が次々と出社回帰を進め、日本企業も追随している。「リモートワークは生産性が落ちる」「若手の育成が難しい」「組織文化が崩壊する」―こうした理由で、コロナ禍に導入したリモートワークを撤回する企業が増えているのだ。
ガートナーの調査でも、従業員が会社に求める重要なものの3位に「ワーク・ライフ・バランス」が入っており、リモートワークへのニーズは依然として高い。しかし、企業側は「コミュニケーション不足」「マネジメントの難しさ」を理由に、出社を求め始めている。

就活時に「フルリモート可」と謳っていた企業が、入社後に「やっぱり週4出社にします」と方針転換する事例もある。実際、採用時の魅力として打ち出していたリモートワークを、入社後に撤回した国内大手IT企業も存在する。
流行に乗った制度ではなく、自分に合った働き方を提供してくれる企業かどうかを見極めることが大切だ。「リモートできる=良い会社」という単純な図式は崩れている。逆に、「出社が基本だからダメな会社」というわけでもない。大事なのは、その働き方が自分の成長と目標に合っているかだ。
マイナビの2026年卒調査によれば、学生が企業選びで最も重視するのは「安定している会社」(51.9%)で、これが7年連続最多、初めて5割を超えた。しかし、現実は厳しい。
東京商工リサーチの調査では、2024年に早期・希望退職を実施した企業は57社、募集人数は1万9千人で前年の3倍。しかも、実施企業の59.6%が黒字企業だ。「大企業=安定」という神話は、もはや通用しない。
では、どうやって企業を選べばいいのか。リクナビの調査では、企業選びの基準として以下の7つが挙げられている。
同じ理系学生でも、環境で選ぶか、仕事内容で選ぶか、スキルで選ぶかで、未来の可能性は大きく変わる。
「残業が少ない」「リモートができる」といった環境重視で選んだ場合、確かに働きやすいかもしれないが、厳しい環境で鍛えられる機会は減る。一方、「最先端技術に触れられる」「難易度の高いプロジェクトに挑戦できる」といった仕事内容重視で選べば、ハードワークになるかもしれないが、スキルは飛躍的に伸びる。
さらに、「この会社で身につくスキルは市場価値が高いか」というスキル重視で選べば、たとえその会社を辞めても次のキャリアが開ける。
大切なのは、「今の楽さ」ではなく「未来のキャリアの伸びしろ」で判断すること。20代で楽をすると、30代で苦しむ。20代で鍛えられれば、30代で選択肢が広がる。
「会社に縛られず自由に働きたい」「好きな時に好きな場所で働きたい」―そんな憧れを抱いてフリーランスになる若者は少なくない。しかし、フリーランス協会の「フリーランス白書2025」が示すデータは厳しい。
フリーランスの廃業率は、3年で60%以上、10年生存率は約10%。つまり、10年後に生き残っているフリーランスは1割しかいない。しかも、軽貨物ドライバーのような一人親方の場合、全般的な満足度は46.4%とフリーランス全体と比べて大幅に低い。年収は200~400万円が最多(40.9%)で、1日の稼働時間は5~15時間。「自由な働き方」の裏には、長時間労働と低収入というリアルがある。
さらに深刻なのは、一度楽な働き方に慣れると、企業に戻れなくなるという現実だ。フリーランスを経験した若者が「気軽な働き方に慣れてしまい、組織のルールや上下関係に適応できなくなった」と語る事例もある。「今は楽だから」という理由だけで選ぶと、将来の選択肢を自ら狭めることになる。
「体育会系の文化は時代遅れ」「フラットな組織の方が先進的」―そんな風潮があるが、本当にそうだろうか。
確かに、理不尽な上下関係や根性論だけの指導は問題だ。しかし、厳しい環境で鍛えられることで得られるものもある。プレッシャーへの耐性、目標達成へのコミット力、チームで成果を出す力―これらは、ぬるい環境では身につかない。
逆に、フラットな組織では若手でも意見を言いやすいが、その分自分で考え、自分で決め、自分で責任を取る力が求められる。指示待ちでは通用しない。どちらが良い・悪いではなく、自分がどんな環境で成長できるかを見極めることが大切だ。
安易に楽な道を選ぶと、気づいたときには「戻れない道」を歩んでいることがある。

20代で「残業がない」「ノルマがない」「リモートで楽」という理由だけで会社を選び、ぬるい環境でぬくぬくと過ごす。しかし、30代になって「市場価値が低い」「転職しようにもスキルがない」「年収が上がらない」という現実に直面する。
その時、もう一度厳しい環境に飛び込む勇気はあるだろうか。20代のうちなら「新人だから」と許されるミスも、30代では許されない。厳しい環境で鍛えられる機会を逃すと、キャリアの伸びしろは確実に削られる。
体育会系で鍛えられるか、フラット文化で自律的に伸びるか。都市圏で最先端に触れるか、地方で生活を重視するか。リモートで柔軟に働くか、出社でコミュニケーションを密にするか。
どの選択にも一長一短があり、「これが正解」という答えはない。しかし、「今の楽さ」だけで選ぶと、未来の自分が苦しむことだけは確かだ。
ガートナーの調査でも、従業員が会社に求める重要なものの上位は「報酬」「仕事の充実」「ワーク・ライフ・バランス」だった。どれも大切だが、バランスが重要だ。「楽な働き方」だけを追い求めると、「仕事の充実」や「報酬」を犠牲にすることになる。
就活では、目の前の条件に惑わされがちだ。「残業が少ない」「リモートができる」「休みが多い」―こうした条件は確かに魅力的だが、それが5年後、10年後の自分にとって本当に良い選択なのかを考えてほしい。
20代で身につけたスキルと経験は、一生の財産になる。逆に、20代で何も身につけなければ、30代で「何もできない人」になってしまう。フリーランスの10年生存率が10%という厳しいデータが示すように、楽な道は長続きしない。
理系学生の君たちには、自分の専門性を深め、市場価値を高める選択をしてほしい。体育会系で鍛えられるのも、フラット文化で自律的に成長するのも、どちらも価値がある。大切なのは、その環境で自分が最も成長できるかどうかだ。
最後に、最も重要なことを伝えたい。
働き方や文化は、会社が決めるものではなく、自分が選ぶものだ。「この会社の文化に合わせなきゃ」と無理に自分を変える必要はない。逆に、「自分が最も力を発揮できる環境はどこか」を基準に会社を選ぶべきだ。
学生の51.9%が「安定している会社」を求めているが、その「安定」は幻想かもしれない。黒字企業の約6割が早期退職を実施している現実を見れば、真の安定は会社ではなく、自分のスキルと市場価値にあることがわかる。
働き方や職場文化は多様で、どれも魅力的に見える。しかし、「今の楽さ」ではなく「未来のキャリアの伸びしろ」で判断すること。それが、働き方をリアルに考える第一歩だ。
君たちが選ぶのは、「今の快適さ」か、「未来の可能性」か。その選択が、5年後、10年後の君たちを決める。