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【コース1-15】「幸せは収入だけじゃ測れない」— データで解く、お金と幸福の最適解|ステップ学習『幸せを考える』

年収と幸福の関係を最新研究で検証。理系の視点で「お金×やりがい」の最適解と幸福設計を解き明かす。

2026/02/18
【コース1の記事一覧は▶をクリック】
コース1幸せとは?学校では教えてくれない「幸せ」について考える
1-0キャリアを考える前に ― 問いから始めよう
1-1幸せになるためにキャリアを考えるということは正しいのか?
1-2小さな幸せを積み重ねる、それがキャリアになる
1-3欲望という名の燃料
1-4心の進化プログラム
1-5幸せの方程式を解き明かす― 4つの因子がキャリアを加速させる ―
1-6理系という特殊解
1-7幸せになる理屈とキャリア戦略
1-8本音で語る ― 理系学生のための偶発性キャリア戦略
1-9幸福OSを設計せよ — 4因子×キャリアの多目的最適化
1-10「可愛い子には旅をさせよ」の科学的真実
1-11世の中は平等か?努力と成果のギャップの現実
1-12きみの価値観は、本当にきみ自身のものか?
1-13幸せと収入を両立する理系キャリア設計術
1-14働くことと幸せ
1-15「幸せは収入だけじゃ測れない」— データで解く、お金と幸福の最適解
1-16「なんとかなる」で実際になんとかなる作戦
1-17「理系の特権を武器に」― お金を育てる4つの戦略と実践ステップ

科学的証明とBeingの視点からの大転換

「お金があれば幸せになれるはず」——理工系学生なら一度は考えたことがあるだろう。

高年収の企業を目指すのは自然なことだし、実際にお金がもたらす安心感や余裕には確かな効果がある。

しかし、少し立ち止まって考えてみてほしい。

もしお金が幸せのすべてだとしたら、なぜ高収入の人の中にも悩みを抱える人がいるのだろう?

なぜ「お金では買えない幸せ」という言葉があるのだろう?

この疑問に対し、心理学・経済学・脳科学が興味深い答えを示している。

ここでは、理工系らしく“データと論理”で「お金と幸せ」の関係を読み解いてみよう。

 

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年収と幸福度の複雑な関係:最新研究が示す真実

カーネマン&ディートン研究とその後の論争

2010年、ノーベル経済学賞受賞者ダニエル・カーネマンとアンガス・ディートンが発表した研究は、世界に衝撃を与えた。

約45万人のアメリカ人を対象とした調査で、

「年収7.5万ドル(当時のレートで約800万円)を超えると、日々の感情的幸福は頭打ちになる」

という結果を示したのだ。

カーネマン&ディートン研究の主な発見:
  • 年収7.5万ドル未満では、収入と幸福度に強い正の相関
  • 7.5万ドルを超えると、その相関が急激に弱まる
  • ただし「人生満足度(評価的幸福)」は収入とともに上昇し続ける

しかし、この「年収800万円で幸福が頭打ち」という説は後に覆される。

2021年、ペンシルベニア大学のマシュー・キリングワースは3万3000人を対象に、

「年収が高くなるほど幸福度も上昇し続ける」

という正反対の結果を発表した。

その後、2023年にカーネマン本人とキリングワースが共同研究を実施。

結果、「幸福度によってお金の影響が異なる」ことが明らかになった。

※上記2つの図表は本文に記載の研究を基に作成したイメージです。

共同研究の結論:
  • 幸福度が低い人(全体の約20%)は、年収約800万円で上昇が鈍化
  • 幸福度が中程度以上の人は、収入が上がるほど幸福度も上昇

日本のデータが示すリアル

内閣府「満足度・生活の質に関する調査」によると、年収が高いほど生活満足度も上がる傾向がある。

ただし、上昇の度合いは次第に緩やかになる。

日本の年収別・生活満足度(概算値):
  • 年収300万円未満:満足度 5.8 / 10
  • 年収500〜700万円:6.4 / 10
  • 年収1000万円以上:7.1 / 10

 (※内閣府調査を基にした推定値)

理工系学部卒業生の初任給は文系より約10〜15%高く、

技術職の平均年収も全職種平均を上回る(厚生労働省・賃金構造基本統計調査)。

つまり理工系学生は、幸福度の上昇が見られる年収帯に届きやすい立場にある。

だが、ここからが本当の問いである。

 

ヘドニック・トレッドミル:なぜ慣れてしまうのか

「ヘドニック・トレッドミル(快楽のランニングマシン)」とは、1970年代に心理学者フィリップ・ブリックマンが提唱した理論で、

「人は良いことにも悪いことにも慣れ、幸福度は元の水準に戻る」

というものだ。

具体例

  • 年収が2倍になると最初は嬉しいが、半年ほどで「普通」になる
  • 高級車の喜びは数週間で薄れる
  • 広い家も、やがて「標準」になる

脳科学的メカニズム

脳内の報酬系である側坐核では、新しい刺激にドーパミンが分泌される。

しかし同じ刺激が繰り返されると分泌量が減少し、3週間で約半減することが実験で確認されている。

これは「予測誤差」と呼ばれ、脳の省エネ的適応反応である。

とはいえ、この現象が「お金は無意味」という証拠ではない。

お金は安心・自由・選択肢をもたらす重要なツールであり、その価値は慣れても消えない。

 

行動経済学が示す「幸せなお金の使い方」

ハーバード・ビジネススクールのマイケル・ノートンらの研究では、

「お金の使い方が幸福度に大きく影響する」

ことが実証されている。

20ドルの実験で、「他人のために使った人」の方が夕方の幸福度が高かったという。

幸福度を高めるお金の使い方:

  • 体験購入 > 物質購入(旅行・学習)
  • 他者貢献 > 自己消費(寄付・プレゼント)
  • 時間購入 > 物質購入(時短サービス)
  • 少額多頻度 > 高額一回(小さな楽しみを増やす)

技術者のやりがいと報酬のバランス

理工系の仕事は、金銭以外の報酬が多い。

非金銭的報酬の例:
  • 問題解決による達成感
  • プロダクトが社会で使われる意義
  • 新技術に触れ続ける知的刺激
  • 専門性による誇りやアイデンティティ

ただし、非金銭的報酬を重視しすぎて金銭評価を軽視するのも危険だ。

お金は選択肢を広げ、技術を磨く環境を支える基盤でもある。

理想は「やりがい×報酬=持続的幸福」の両立だ。

 

幸福度を左右する要因(多変量解析より)

幸福度への寄与率(概算)

  • 人間関係の質:25〜30%
  • 健康状態:20〜25%
  • 経済状況:10〜15%
  • 仕事の満足度:10〜15%
  • 性格特性:10〜15%
  • その他(住環境・趣味など):15〜20%

→ 経済的要因は確かに影響するが、「決定打」ではない。

人間関係・健康・心理的成長の方が、幸福の持続性に寄与する。

 

理工系学生のための「幸福の設計図」

お金との健全な関係を築く

  • 必要年収を把握し、それ以上は「選択肢のツール」と考える
  • 物質的満足よりも心の充実を重視

技術者としてのアイデンティティを育てる

  • 社会に貢献する実感を大切に
  • 学びと成長を楽しむ
  • 技術コミュニティとのつながりを保つ

データに基づく自己理解

  • 自分の幸福要因を分析
  • 主観的幸福と客観的幸福の両立
  • 認知バイアスを意識して判断する

長期的キャリア設計

  • やりがいと報酬の両立を意識
  • 技術的成長と人間的成長を両立
  • 変化に適応できる柔軟性を持つ

今日からできる小さな実践

  • 感謝の記録をつける(毎日3つ)
  • 新しい技術に触れる
  • 人とのつながりを大切にする
  • 体験にお金を使う
  • 適度に運動する

 

最後に:幸せは「目指す」ものではなく「築く」もの

お金と幸せの関係を科学的に見ると、

重要なのはどちらか一方ではなくバランスだ。

お金は確かに選択肢を広げるが、幸福の持続には「成長」「感謝」「つながり」「自分らしさ」の実感が欠かせない。

理工系学生の君たちには、データを読み解く論理的思考力がある。

その力で、自分なりの「幸福の方程式」を見つけてほしい。

技術で社会を変える力を持つ君たちが、

まず自分自身の幸せを科学的にデザインできたなら、

それはきっと、社会全体の幸福を押し上げる力にもなる。

 

次の章はこちら→【コース1-16】 「なんとかなる」で実際になんとかなる作戦

 

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参考文献

  • Daniel Kahneman & Angus Deaton (2010). “High income improves evaluation of life but not emotional well-being.” PNAS, 107(38), 16489–16493.
  • Matthew A. Killingsworth (2021). “Experienced well-being rises with income, even above $75,000 per year.” PNAS, 118(4).
  • Kahneman, D. & Killingsworth, M. A. (2023). “Income and emotional well-being: A conflict resolved.” PNAS, 120(13).
  • 内閣府(2024)『満足度・生活の質に関する調査』。
  • 厚生労働省(2024)『賃金構造基本統計調査』。
  • Philip Brickman & Donald T. Campbell (1971). “Hedonic relativism and planning the good society.” Academic Press.
  • Michael I. Norton et al. (2008). “Spending money on others promotes happiness.” Science, 319(5870), 1687–1688.
  • Robert Waldinger(2023)『ハーバード式「幸せになる」研究』サンマーク出版。
  • 前野隆司(2013)『幸せのメカニズム──実践・幸福学入門』講談社現代新書。