― リスクテイクとリスク管理の重要性 ― きみの脳が「危険だ!」と叫ぶとき、それは最大のチャンスかもしれない。
きみの脳が「危険だ!」と叫ぶとき、 それは最大のチャンスかもしれない。
理工系の学生からよく聞くのが、
「リスクは避けたい」「安定した企業に就職したい」という声だ。
確かに、論理的にリスクを計算し回避するのは合理的に見える。
しかし、ここに脳の進化的ギャップがある。
人間の脳は、狩猟採集期の祖先環境で生き延びるために発達した構造を多く残している。
現代社会では、その本能がしばしば過剰反応を起こす。
心理学研究では、人間の脳がポジティブ情報よりネガティブ情報に強く反応することが知られている(Baumeister et al., 2001)。
これを「ネガティビティ・バイアス」と呼ぶ。
石器時代では「果物を見つけて喜ぶ」よりも、
「毒キノコを避ける」ほうが生存に直結していた。
危険を過大評価した個体ほど、生き残ったのだ。
しかし現代では、この仕組みがリスク過剰回避として働く。
たとえば次のような場面だ。
心理学のエラーマネジメント理論(Error Management Theory)によると、
「木の枝を蛇と誤認するほうが、蛇を木の枝と誤認するより安全だった」とされる(Haselton & Buss, 2000)。
つまり、過剰に警戒する(偽陽性)ほうが油断する(偽陰性)よりも有利だった。
ただし現代社会では、この方程式が逆転している。
挑戦を「危険」と誤認して避けることが、
むしろ成長機会を逃す本当のリスクにつながる。

スペンサー・ジョンソンの『チーズはどこに消えた?』(1998)は、
変化への適応力を寓話的に描いた名著だ。
4つの登場キャラクター(スニッフ、スカリー、ヘム、ホー)は、
それぞれ異なる変化対応を示す。
作中では「古いチーズを早く手放すほど、新しいチーズを早く見つけられる」と語られる。
— スペンサー・ジョンソン『チーズはどこに消えた?』(1998)
物語の中でヘムは古いチーズに固執し、変化を拒み続ける。
これは次のような学生像と重なる:
一方のホーは、恐れを乗り越えて行動し、
「新しいチーズ」を探しに出る。
これがマインドセット転換の鍵だ。
「すべてのリスクが危険」という考えは誤りだ。
重要なのは可逆性(reversible)と不可逆性(irreversible)の区別。
この考え方は、Amazon創業者ジェフ・ベゾスが2015年の株主宛書簡で述べた
「一方通行(Type1)/往復可能(Type2)」の意思決定にも通じる。

※ただし、健康・ビザ・経済的条件などの個別事情に応じた判断は必要。
学習理論では、自分との違いがある環境ほど新しい学習が促されることが知られている。
これはヴィゴツキーの「最近接発達領域」やBjorkの「望ましい困難」の考え方※とも通じる。
「リスク=非連続性」であり、その非連続性こそが可能性の燃料だ。
※心理学者ロバート・A・ビョーク(Robert A. Bjork)が提唱した「望ましい困難(Desirable Difficulties)」は、学習心理学の重要な理論の一つ。
複数の研究によると、
多文化経験や多様なチーム構成は次のような傾向をもつ。

ここで重要な真実を伝えておこう。「選ばない」という選択にも、リスクテイクしないという選択にも、実はリスクが潜んでいる。
明確な意図なく「何となく」で進路を決めた学生は、戦略的に選択した学生よりも離職率が高い傾向があると指摘されることがある(※明確な統計的根拠は限定的)。
「選ばない・考えない」という姿勢は、十分なリスク調査を行わずに入社するという行動につながり、結果的により大きなリスクを生む可能性がある。
ただし、これは「必ず選択しろ」「考えろ」という意味ではない。
戦略的な選択保留という選択肢もある。
重要なのは、「ただ流されている保留(時間の浪費)」と「戦略的保留(投資)」を区別することだ。
「別に何でもいいよ」「みんなに合わせるよ」「目立たないようにしよう」
この一見平和的な態度には、実は大きな代償がある。
心理学者バリー・シュワルツが『選択の科学』で指摘したように、選択から逃避し続けると“学習性無力感”に陥るリスクがある。
(※この概念はマーティン・セリグマンによる心理学理論が基盤である)
特に学生の中には「目立たないようにしよう」という姿勢を持つ人も多く、これは一見安全なようで、主体性を弱める潜在的リスクを内包している。

目立つということは希少性でもある。希少性=価値であり、チャンスの大きさも比例する。
目立つことで刺激を受け、それに向き合う過程で人は成長する。
一方、それがない場合は時間が過ぎていくのみで、「ごく普通」に落ち着いてしまう。
しかし、「ごく普通」とは一体何で、それが本当に幸せなのか?
慶應義塾大学の前野隆司教授が提唱する「幸せの4因子」と照らし合わせて考えてみよう。
「目立たないようにする」「普通でいる」選択は、この4つすべてに少なからず悪影響を与えると考えられる:
この整理でわかるように、「目立たないようにする」「普通でいる」という選択は、幸せ4因子の観点から見ても“幸福度を下げる要因”になり得る。
リスクテイクなど「選択から逃避し続ける」状態が長期化すると、心理的には次のような影響を及ぼすとされる:
特に理工系学生にとって、これは致命的だ。
技術革新には「これまでと違うことをやってみよう」という意志が不可欠だからだ。

戦術は木を見ること、戦略は森を見ること。
理工系学生が犯しがちな間違いは、戦術(技術スキル)にばかり注目して、戦略(人生全体の設計)を見失うことだ。
リスクヘッジにおいても同様に、大局観をもつことが重要である。
単一スキルではなく、組み合わせによって希少価値を生み出すことがリスクヘッジになる。
「普通である」ということは、コモディティ化=“交換可能な存在”になるリスクを伴う。
したがって、スキルの組み合わせで希少性を生むことが価値につながる。
例:
一つの会社や職種に依存しない収入構造を持つ:
変化そのものを楽しめる体質を育てる:
最後に、豊かさの設計図を描いてみよう。建築の設計図のように、全体像を把握してから詳細を決める。
お金や地位だけでなく、多面的な豊かさを測る:
この設計図はプロトタイプだ。使いながらアップデートしていこう。
人生は一発勝負のプロダクトではなく、継続的改善が可能な“生涯開発プロジェクト”なのだ。

理系らしく、リスクを定量化してみよう:
| 指標 | 内容 |
|---|---|
| 影響度(1-10) | 失敗した場合の影響の大きさ |
| 可逆性(1-10) | 元に戻せる可能性 |
| 学習価値(1-10) | 得られる経験・スキルの価値 |
| 機会コスト(1-10) | やらなかった場合の損失 |
リスク指数 = (学習価値 × 可逆性 × 機会コスト) ÷ 影響度
この指数が高いほど、「挑戦すべきリスク」と考えられる。
スタートアップのMVP(Minimum Viable Product)の考え方をリスクテイクに応用:
例:海外での研究に興味がある場合
このように段階的に挑戦を広げていくことで、リスクを低減できる。
投資理論のように、リスクも分散する:

理工系の君たちなら理解できるはずだ。人生は壮大な実験だ。
仮説を立て、実験し、データを収集し、分析し、次の仮説を立てる。
「可愛い子には旅をさせよ」という格言は、比喩的に言えば現代にも通じる。
脳が「危険だ!」と警告するとき、それはしばしば「成長のサイン」でもある。
そして覚えておいてほしい。
