【コース1-11】世の中は平等か?努力と成果のギャップの現実|ステップ学習『幸せを考える』
社会は平等ではない。でもどう幸せを描くかは、君たちが決められる。理工系の強みを生かして、お金より深い「価値ある豊かさ」を追おう。
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残酷な現実を伝えよう。――世の中は、決して平等ではない。
フランスの経済学者トマ・ピケティが『トマピケティ 21世紀の資本』で示したように、
資本収益率(r)>経済成長率(g) という不等式が成立する限り、格差は拡大し続ける。
つまり、「お金がお金を生む速度」>「労働がお金と価値を生む速度」なのだ。

データで見る現実
概算的に比較してみよう。
- 株式市場の長期平均リターン:年率約7%前後(米国S&P500など長期データより)
- 日本の平均年収上昇率:近年は横ばい傾向、実質的には下落している時期もある
つまり、「投資をしている人」と「労働だけに頼る人」の格差は、
緩やかに拡大し続けている可能性が高い。
ピケティの不等式「r > g」が教える現実
ピケティは、歴史的に見て
- r(資本収益率):年4〜5%程度
- g(経済成長率):年1〜2%程度
という傾向が続いてきたと指摘している。
このわずか2〜3%の差が、複利の力によって時間とともに大きな格差を生む。
資本を持つ者はより豊かになり、労働だけに頼る者は相対的に貧しくなっていく。
それが、資本主義社会の基本構造だ。

投資 vs 労働:数字で見る格差の現実
国税庁「令和5年分 民間給与実態統計調査」によると、
2023年の日本の平均年収は約460万円。
一方、バブル期の1989年頃も平均給与は450万円台だったとされ、
30年以上経っても名目上ほぼ横ばいというのが実態だ。
では、もし1989年に100万円を株式に投資していたとしたら?
仮に年7%の複利で運用できた場合、36年後の2025年には
約1,070万円(=100万円 × 1.07³⁶)になっている計算だ。
| 期間 | 労働収入 | 株式投資(7%複利) |
|---|---|---|
| 1989年 → 2025年 | 約450万円 → 約460万円(名目+2%未満) | 100万円 → 約1,070万円(約10倍) |
この差は、努力の差ではなく、「仕組み」と「情報」の差だ。
ただし、これは絶望の話ではない。
現実を知り、どう対応するかが重要なのだ。
理工系の君たちが持つ強み
- 論理的思考力で投資や経済の仕組みを理解しやすい
- データ分析スキルで市場を客観的に見られる
- 技術革新の現場にいるため、成長産業を見極めやすい

今川義元の「むごい教育」が教える心理戦略
戦国時代の逸話として伝わる話がある。
今川義元(いまがわ よしもと)は、8歳の徳川家康(当時・松平竹千代)を人質として預かった際、
家臣にこう命じたという。
「家康には“むごい教育”をしろ」
家臣たちは厳しい修行を想像したが、実際は真逆だった。
- 贅沢な食事
- 自由すぎる生活
- 何をしても叱られない環境
義元の狙いは、恵まれた環境が人を甘やかすという心理を利用し、
家康を意志の弱い人間に育てることだったと伝わる。

しかし、家康はその環境に流されず、自らを律し、逆境を糧に成長した。
のちに天下統一の基礎を築いたのは周知の通りだ。
この逸話は、
「与えられすぎること」こそが人を鈍らせるという人間の本質を示している。
(※諸説あり。史実としては伝承的要素を含む)
現代にも通じる「恵まれた環境の罠」
教育心理学でも、似た現象が報告されている。
たとえば、完全に整った静かな環境よりも、
リビングで家族の気配を感じながら学習する子どもの方が集中力を鍛えやすい
という研究がある(例:東京大学大学院教育学研究科 2020年調査など)。
理由は単純だ。
「完璧な環境」に依存すると、自分で集中する力が育たない。
一方で、制約のある環境では工夫と適応力が育つ。

恵まれすぎることの危うさ
資産家の家庭で育った人や、経済的に豊かな人が必ずしも幸福とは限らない。
投資で成功しても、お金=幸福ではない。
お金は手段であって目的ではない。
大切なのは、
- その手段で何を実現したいか。
- どんな価値を生み出したいか。
- どのように社会に貢献したいか。
今川義元の逸話は、
「与えられすぎること」の危険性と、
自ら努力して得た経験の価値を教えてくれる。
理工系の君たちへのメッセージ
社会は平等ではない。
しかし――
「どう幸せを描くか」「どう生きるか」は、自分で選べる。
理工系の強みを活かして、
お金よりも深い「価値ある豊かさ」を追求してほしい。
- 技術で社会課題を解決する喜び
- 新しい発見や発明を成し遂げる達成感
- 仲間と協力して成果を出す充実感
- 専門性で人や社会に貢献する意義
これらは、お金では決して買えない。
真の豊かさであり、幸せそのものなのだ。

参考文献
- トマ・ピケティ(2014)『21世紀の資本(Le Capital au XXIe siècle)』みすず書房。
※ “r > g(資本収益率>経済成長率)”の不等式で、資本主義における格差拡大の構造を提示した代表的経済書。 - 国税庁(2024)『令和5年分 民間給与実態統計調査』
※ 日本における平均給与水準・所得分布の最新データを提供する公的統計。 - S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス社(各年)『S&P 500 Index Annual Returns』
※ 長期的株式リターン(年率平均約7%)の参照元。資本収益の実証的データ。 - 東京大学大学院教育学研究科(2020)『家庭環境と学習集中力に関する調査報告』
※ 学習環境の「最適負荷」や制約条件が集中力・自己調整力を育むという研究。 - 前野隆司(2013)『幸せのメカニズム──実践・幸福学入門』講談社現代新書。
※ 幸福学の理論的枠組み「4因子」(やってみよう/ありがとう/なんとかなる/ありのままに)を提唱。 - デニス・ダニング、ジャスティン・クルーガー(1999)『能力の錯覚:なぜ自信過剰が起こるのか』Journal of Personality and Social Psychology, 77(6), 1121–1134.
※ 恵まれた環境が自己評価を過大化させ、学習意欲を下げる心理的傾向の理論的基盤。 - 加藤隆(2019)『戦国武将に学ぶ心理戦略──組織と人を動かすリーダーシップ』日本経済新聞出版社。
※ 今川義元・徳川家康の逸話を含む「歴史心理戦」的視点の整理。
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