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【コース1-14】働くことと幸せ|ステップ学習『幸せを考える』

「働く=他者貢献」を原点に、動機・幸福・キャリアを科学的に再設計。10年後を見据えた仕事の選び方を問う。

2026/01/05
【コース1の記事一覧は▶をクリック】
コース1幸せとは?学校では教えてくれない「幸せ」について考える
1-0キャリアを考える前に ― 問いから始めよう
1-1幸せになるためにキャリアを考えるということは正しいのか?
1-2小さな幸せを積み重ねる、それがキャリアになる
1-3欲望という名の燃料
1-4心の進化プログラム
1-5幸せの方程式を解き明かす― 4つの因子がキャリアを加速させる ―
1-6理系という特殊解
1-7幸せになる理屈とキャリア戦略
1-8本音で語る ― 理系学生のための偶発性キャリア戦略
1-9幸福OSを設計せよ — 4因子×キャリアの多目的最適化
1-10「可愛い子には旅をさせよ」の科学的真実
1-11世の中は平等か?努力と成果のギャップの現実
1-12きみの価値観は、本当にきみ自身のものか?
1-13幸せと収入を両立する理系キャリア設計術
1-14働くことと幸せ
1-15「幸せは収入だけじゃ測れない」— データで解く、お金と幸福の最適解
1-16「なんとかなる」で実際になんとかなる作戦
1-17「理系の特権を武器に」― お金を育てる4つの戦略と実践ステップ

記事概要

理工系学生が抱く「働くこと」への疑問や不安に対して、語源から現代のキャリア形成まで、本音で読み解く。

これは単なる就活ハウツーではない。

「働く意味」を一生考え続けるための、リアルで実践的な視点を示す。

綺麗事ゼロ、社会の現実を踏まえたスパイシーなメッセージだ。

🌶️ 本当にその会社で10年働き続けられる?君たちの“働く理由”は何だ?

 

1. 「働く」の語源が示す本質:傍を楽にする → 他者貢献

まずは原点から考えよう。

「働く」という言葉の語源を知っているだろうか?

一般に「働く」は「傍(はた)を楽(らく)にする」、つまり周囲の人を助ける・楽にするという意味から来ているとされる。

(※日本語学的には諸説あるが、近年は「他者貢献としての働く」解釈として広く紹介されている。)

📊 現実チェック

キャリタス就活2024調査によると、

入社決定時の勤務先満足度81.8% → 入社1年後には75.3%へ低下(−6.5pt)。

なぜ下がるのか?

理由は明快だ。

「自分のためだけ」に働こうとするからだ。

給料、安定、将来性──もちろん大切。

だが、それだけでは続かない。

現代語訳するとこうなる:

  • 古典的解釈:傍を楽にする → 他者の困りごとを解決する
  • 現代的解釈:価値を提供する → 誰かの課題を技術で解決する

「就職」は、自分の生活のためだけではない。

慶應義塾大学・前野隆司教授の「幸せの4因子」のうち、

第2因子「ありがとう!」(つながりと感謝)は、まさに「傍を楽にする」の実践と言える。

🌶️ 君たちの研究や行動は、誰かの“ありがとう”につながっているか?

 

2. 誰のために働くのか?:4つの受益者レイヤー

「誰のために働くのか?」

この問いが、仕事の意味を決定づける。

社会の構造を現実的に見れば、働きの目的は次の4層に分けられる。

レイヤー1:自分(Self)

  • 経済的自立:生活と将来の安定
  • 自己実現:やりたいことを形にする喜び
  • 成長実感:昨日の自分を超える達成感
  • 社会的地位:承認欲求の充足

レイヤー2:家族・恋人(Family)

  • 経済基盤:家族の幸せを支える
  • 時間の確保:大切な人と過ごす余白
  • 将来の安心:子育て・介護・老後の備え
  • 誇り:家族が誇れる仕事をする

レイヤー3:社会・コミュニティ(Society)

  • 課題解決:社会の問題を技術で解く
  • 文化創造:新しい価値観・働き方を提案
  • 雇用創出:起業・事業拡大による貢献
  • 知識還元:研究や経験を社会に活かす

レイヤー4:未来世代(Future)

  • 持続可能性:環境・資源の課題対応
  • 技術継承:知識と技術を次世代へ
  • 文明発展:人類の進歩に寄与
  • 希望創造:次世代が夢を描ける社会へ

📊 データで見る現実

国内外の調査でも、「より大きな目的」を意識して働く人ほど、仕事満足度が高いことが示されている。

🌶️ 君たちは今、どのレイヤーまで見えている?

レイヤー1(自分)だけなら、それは“仕事”ではなく“労働”かもしれない。

 

3. 結局、誰のために働くべきなのか?:「自分のために働く」の真意

4層を見て「結局、どれを優先すればいいんだ?」と思うかもしれない。

答えは──自分のために働こう

「他者貢献って言ったじゃないか!」と思うだろう。

だが、ここで言う“自分のため”とは、自分を成長させることで他者にも価値を返すという意味だ。

📊 神田昌典氏『非常識な成功法則』でも、まずは自分の欲求を満たし、それを段階的に高めることが成功の基本と述べている。

これはマズローの欲求階層説とも一致する。

「自分のために働く」3段階

  • 段階1(下位層):生理的・安全欲求

    → 食べて生きる・安全に暮らす

    → 働く意味:「生存と安定のため」

  • 段階2(中位層):社会的・承認欲求

    → 仲間とつながり、社会の一員として認められる

    → 働く意味:「つながりと承認のため」

  • 段階3(上位層):自己実現欲求

    → 自分らしさを発揮し、価値を生む

    → 働く意味:「自己実現と他者貢献のため」

ここで、前野隆司教授の「幸せの4因子」が再び登場する。

  • 「やってみよう!」=挑戦と成長
  • 「ありがとう!」=感謝とつながり
  • 「なんとかなる!」=楽観と回復力
  • 「ありのままに!」=自分らしさ

これらを実践できる働き方こそ、“真に自分のための仕事”だ。

 

4. 浅いサーフィン型 vs 深く続くダイビング型

働き方には、大きく2つのスタイルがある。

どちらが正解かは君たち次第だが、リスクと向き合う必要がある。

 

項目サーフィン型(Surfing)ダイビング型(Diving)
特徴トレンドに乗り、短期で成果を出す一分野を深く掘り下げ、専門性を磨く
メリット変化に強く、新しい挑戦がしやすい希少価値の高い専門家として成長
デメリット専門性が浅く、継続的成長が難しい柔軟性を失うリスク
向いている人多様な経験を楽しむタイプ集中力と継続性を重視するタイプ

理工系学生の多くは、もともとダイビング型に適性がある

なぜなら:

  • 論理的思考力が高い
  • 継続学習に強い
  • 専門知への敬意がある

しかし現代は、「T字型人材」「π型人材」が理想とされる。

  • 縦軸(|):深い専門性(ダイビング型)
  • 横軸(ー):幅広い教養・他分野連携(サーフィン型)

🌶️ 「何でもできる器用な人」と「誰にも負けない専門家」。

君たちは、どちらの方向に進みたい?

 

5. 仕事と幸せのつながり:成長・感謝・自分らしさの実現

仕事が幸せにつながる3つのメカニズムを、心理学・行動科学の知見にもとづいて解説する。きれいごとではなく、データと実務感覚を両立させた話だ。

メカニズム1:成長による幸せ(Growth Happiness)

心理学者ミハイ・チクセントミハイのフロー理論では、人が深い没入と満足を感じる条件として、概ね次が挙げられる。

  • 明確な目標がある
  • 即時のフィードバックが得られる
  • スキルと課題の難易度が釣り合っている

理工系の仕事は、この条件を満たしやすい。

  • プログラミング:動作確認やテストで即時に結果が返る
  • 実験・研究:仮説検証のサイクルで学習と改善が回る
  • 設計・開発:完成物・ユーザー反応を通じて達成感を可視化できる

メカニズム2:感謝による幸せ(Gratitude Happiness)

「誰かの役に立っている実感」は、主観的幸福感の上昇と関連があることが、心理学研究で繰り返し示されている。感謝介入(感謝日記・感謝の振り返り等)は、

  • 幸福感の上昇
  • ストレス低下の自覚
  • 睡眠の主観的質の改善

などに資する傾向が報告されている(効果量・持続期間は研究により幅あり)。

理工系の仕事は「感謝の見える化」をしやすい。

  • 医療機器開発:患者・医療者のアウトカム改善に直結
  • 環境技術:地域・地球環境の負荷低減に貢献
  • AI・IoT:日常の不便の解消と利便性向上
  • 技術サポート:ユーザーの困りごと解決が直接「ありがとう」につながる

メカニズム3:自分らしさによる幸せ(Authenticity Happiness)

価値観と行動の一貫性(自分らしさ)が実感できると、エンゲージメントや創造性が高まり、離職意向は相対的に下がりやすいと示す研究がある(効果には個人差)。

理工系学生が持ちやすい動機・特性――

  • 論理的思考を使いたい
  • 問題解決に取り組みたい
  • 新技術を学び続けたい
  • 社会に価値を提供したい

――と仕事が噛み合うほど、幸福度のドライバーが強化されやすい。

📊 現実チェック

キャリタス関連の2024年調査では、入社1年目で「想定以上に成長」「想定どおりに成長」を合算して63.8%。約3人に2人が一定の成長実感を得ている。一方で、実感できない層も存在する点は押さえておきたい。

🌶️ 君たちの専攻や仕事の選び方は、「自分らしさ」と整合しているか?

過去の選択とこれからの選択は、同じでなくていい。積み重ねを再設計し、強みに変えていこう。

 

6. 働く場の選び方:組織・スタートアップ・フリーランス

どこで働くかは、どう働くかと同じくらい重要。理想像だけでなく、現実面も直視して選ぼう。

大企業・組織(Corporation)

メリット
  • 安定的な収入:月給・賞与・各種手当
  • 研修制度の充実:体系的スキルアップ機会
  • 大規模プロジェクト:個人では扱えない規模・社会的影響
  • ネットワーク:大手同士・取引先との接点
  • 社会的信用:ローン・クレジット審査で有利になりやすい
デメリット
  • 意思決定の遅さ:稟議・承認プロセス
  • 裁量の限定:役割分業が明確で、変更に時間
  • 変化への鈍さ:組織慣性・レガシー資産
  • 年功序列の残存:成果と昇進・昇給の連動度に幅

スタートアップ(Startup)

メリット
  • 高成長の可能性:事業拡大とともに報酬・役割が拡大
  • 大きな裁量:意思決定に近く、提案が実装されやすい
  • 最新技術に接する:フロンティアで学べる
  • オーナーシップ:ストックオプション等の機会
  • スピード感:学習と実装の高速反復
デメリット
  • 事業リスク:失敗・縮小の可能性(フェーズ依存)
  • 収入の不安定性:資金調達・業績に左右されやすい
  • 長時間化リスク:少数精鋭ゆえの負荷集中
  • 福利厚生の薄さ:制度設計の発展途上
  • メンター不足:育成に割ける余力が限られることも

フリーランス(Freelance)

メリット
  • 自由度:時間・場所・案件選択の主導権
  • 上限なき報酬ポテンシャル:市場価値×営業力
  • 多様な経験:複数業界・複数企業に関与
  • 税務上の裁量:経費計上による最適化
  • 学習の強制力:市場に合わせ自己研鑽が続く
デメリット
  • 収入変動:案件次第でブレが大きい
  • 社会的信用の壁:与信で不利になりやすい
  • 非コア業務負担:営業・契約・経理の自己完結
  • 孤立リスク:同僚不在・ケアの不足
  • 自己管理の難易度:健康・時間・学習の全責任
  • ダウンタイム直撃:病気・怪我=即収入減
  • 復帰難易度:自由度に慣れると組織復帰が難しくなる場合
  • 社会保障の薄さ:公的制度は自前手当が基本

📊 現実データ(示唆)

働き方別の「総合満足度」は、個人の価値観・裁量の度合い・人間関係に強く依存し、単純な優劣はつけにくい。自分にとっての評価軸を明確化してから比較しよう。

🌶️ 「安定」と「自由」を両取りしたいなら?

キャリアの段階設計(フェーズ戦略)と収入ポートフォリオ(副業・資産形成)の併用で設計可能だ。

 

7. 働く動機のタイプ分け:自分の動機パターンを知る

心理学者エドワード・デシ、リチャード・ライアンの自己決定理論(SDT)を手がかりに、動機の段階を把握し、外発→内発へと質を高めよう。

外発的動機(Extrinsic Motivation)

1. 外的調整型(External Regulation)
  • 動機:報酬獲得・罰回避
  • 特徴:「お金のため」「怒られないため」
  • リスク:報酬が消えると動機も消える
2. 取り入れ調整型(Introjected Regulation)
  • 動機:自尊心維持・周囲評価
  • 特徴:「認められたい」「恥をかきたくない」
  • リスク:他者評価への依存、燃え尽きの懸念
3.同一化調整型(Identified Regulation)
  • 動機:個人目標との整合
  • 特徴:「将来目標のため」「スキルアップのため」
  • リスク:目標達成後の反動で動機低下も

内発的動機

4.統合的調整型(Integrated Regulation)
  • 動機:価値観と行動が統合
  • 特徴:「自分らしさの表現」「人生の一貫性」
  • 強み:持続性・ストレス耐性
5.内発的動機型(Intrinsic Motivation)
  • 動機:活動それ自体が楽しい
  • 特徴:「やっていて面白い」「時を忘れる」
  • 強み:高い創造性・最良のパフォーマンス

理工系が狙いたいのは、統合的調整+内発的動機の組み合わせ。

ただし、多くの場合は外発で始まり、深く取り組む中で内発が芽生える。

研究室での長時間実験や開発プロジェクトで、最初は「単位・就活のため」でも、いつの間にか「面白い」に変わる経験――それが内発への移行だ。

つまり、やり始めて本気で取り組むからこそ、やりがいと面白さが見えてくる。最初から完璧な動機は不要だ。

実務Tip

  • 志望動機は「自分の価値観×相手の仕事状況の合致」で語る
  • 入社後も、定期的に動機の棚卸しを行い、質を高める

📊 セルフチェック(動機タイプ診断の着眼点)

  • 今の(または想定する)仕事に、どんな気持ちで向き合っている?
  • 報酬や評価がなくても、続けたいと思える時間があるか?
  • その仕事を人に説明する言葉は何か?(価値観語/報酬語)
  • 仕事中の自分を想像したとき、どんな感情が湧く?

この答えは時間とともに変化してよい。大切なのは、変化に気づき、より深い満足へ微調整し続けることだ。

🌶️ 10年後の自分は、どんな動機で働いていたい?

 

まとめ

「働く」の核は「端(はた)を楽にする」=他者貢献。

理工系の君たちには、技術で課題を解く力がある。ただし、それが幸せにつながるかは、動機の質・働く場・誰のために働くかで大きく変わる。

2024年時点の各種調査でも、成長実感や満足度は個人差が大きい。表面的条件だけでなく、自分らしさ・貢献実感・学習機会という内側の評価軸で選ぼう。

本当の幸せは、自分らしく、誰かの役に立ち、成長し続けられる場所に宿る――それが「端を楽にする」という原点だ。

 

参考文献

  • 日本経済新聞「『働く』とは他者を楽にすること」(2013/9/17)
  • 株式会社ディスコ「入社1年目社員のキャリア満足度調査」(2024年3月)
  • 前野隆司『幸せのメカニズム』講談社現代新書(2013)/慶應義塾大学 前野研究室「幸せの4因子」関連資料
  • Mihaly Csikszentmihalyi, Flow(関連邦訳:『フロー体験 喜びの現象学』世界思想社, 1996)
  • Edward L. Deci & Richard M. Ryan, Self-Determination Theory(SDT関連論文)
  • 内閣府「参考データ集 ― 理系学生の就職・満足度関連」
  • 文部科学省 科学技術・学術政策研究所「理工系学生の進路動向」(2024)
  • マイナビ「2024年卒 大学生活動実態調査」(2023年10月)
  • 感謝介入と幸福に関する大学研究(例:Emmons & McCulloughほか。効果量・持続期間は研究により差異)

 

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