【コース1-12】きみの価値観は、本当にきみ自身のものか?|ステップ学習『幸せを考える』
今の君の考えは本当に自分の判断か?認知バイアスと就職データから、価値観を自力で設計する思考法を解説。
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はじめに
理工系学生の多くが無自覚に信じている「大企業志向」「安定神話」。
それは本当に、自分で導き出した価値観だろうか?
心理学者ダニエル・カーネマンの認知理論と、最新の就職データをもとに、
「価値観形成の罠」と「自立した思考」への道筋を探る。

問いを問う、哲学的前置き
まず問おう。「自分自身」とは何か?
哲学的には、人は社会的関係の中で形成される存在であり、
絶対的で不変の「自分」など存在しないとされる。
時代・文化・環境によって、私たちは常に変化していく。
ここでの焦点は、「主体としての自分」だ。
日々の選択を行い、責任を負う存在としての「自分」が、
本当に自分の意志で価値観を形成しているのか?
それとも、他者の思考を“自分の考え”だと思い込んでいるのか?

1. 君たちの脳は騙されている ― システム1の罠
「自分で考えているつもり」で、
実は思考を停止しているケースは驚くほど多い。
【データで見る現実】
マイナビ2026年卒調査によると、
理工系学生の大手企業志向率は51.8%。
半数以上が「大手企業がよい」と答えている。
【カーネマンの理論】
ノーベル経済学賞を受賞した
ダニエル・カーネマン(『ファスト&スロー』)は、
人の判断には2つのシステムがあると述べた。
- システム1:直感的・自動的・感情的
- システム2:論理的・意識的・分析的
問題は、多くの価値判断がシステム1によって下されることだ。
つまり、「深く考えずに」「なんとなく」選んでしまっている。
「大企業が安定」「理系は就職に有利」
——それは本当に、自分で検証した結論か?

2. 価値観を支配する4つの影響要因
理工系学生の価値観形成には、次の4つの要因が大きく影響する。
2-1. 家族の価値観(特に親の職業・考え方)
岐阜大学の研究によると、
青年の価値観は「実際の親の考え」よりも、「子どもが想像する親の考え」に強く影響される。
親が何を言ったかではなく、子が“親はこう考えているだろう”と思い込むことが決定的。
理工系の親を持つ学生ほど、「技術系なら大手企業で安定」という固定観念を持ちやすい。
だが、それは現代の市場構造に本当に合っているのか?
2-2. 学校教育システム(偏差値重視・減点主義)
日本の教育は「正解を早く見つける力」を育てる。
しかしキャリア設計に「正解」は存在しない。
偏差値→大手企業という“エスカレーター思考”は、
変化の激しい時代ではリスクにもなり得る。
2-3. メディア(テレビ・SNS・YouTube)
メディアは「わかりやすいストーリー」を好む。
「大手=安定」「AIで仕事がなくなる」など、複雑な現実を単純化したメッセージが
無意識のうちに価値観を方向づけてしまう。
2-4. 同調圧力(みんなと同じが安心)
マイナビ調査によると、理工系学生の51.8%が「大手企業志向」と回答。
背景には「多数派に従うことで安心を得る」
バンドワゴン効果がある。
「みんなが大手を目指している」
「理系なら当然大手」
——そうした空気が、個人の判断を支配している。
さらに、同じ調査では以下の結果も示されている。
- 「共働き志向」:72.1%
- 「転勤が多い会社は避けたい」:31.0%
この2つの価値観は、構造的に両立しづらい。
「大手企業志向」と「地域安定志向」が
同時に存在している点に、無意識の矛盾が見える。
(※大手企業でも地域限定職制度がある場合は例外)

3. 理工系学生の3大思い込みと現実
理工系学生が陥りやすい代表的な「思い込み」と、
実際のデータが示す現実を比べてみよう。
🚫 思い込み①:「大企業が安定」
大企業なら将来安泰。終身雇用で安心。
✅ 現実
大企業の倒産リスクは、業界や景気によって大きく変化する。
経済産業省や中小企業庁の統計によると、企業の平均寿命は約30年前後。
規模の大きさや知名度が、必ずしも長期的な安定を保証するわけではない。
むしろ、組織が大きいほど意思決定が遅れ、
急速な市場変化に対応しにくいリスクもある。
本当の「安定」とは、変化に柔軟に対応できる力のことだ。
🚫 思い込み②:「理系は文系より就職に有利」
技術職だから就職は楽勝。専門性があるから安心。
✅ 現実
厚生労働省・文部科学省「令和6年度大学等卒業者の就職状況調査」(2025年4月発表)によると、
- 理系就職率:97.3%(前年比▲1.5pt)
- 文系就職率:98.2%(前年比+0.3pt)
就職率はわずかに文系が上回っている。
つまり「理系=有利」という単純な構図はすでに崩れており、
専門性と市場ニーズの一致こそが就職成功の鍵だ。
🚫 思い込み③:「AIに仕事を奪われる」
技術の進歩で技術職は不要になる。AIが全てを代替する。
✅ 現実(より複雑な真実)
現在の日本では、ITエンジニアの有効求人倍率は約3.5倍(厚生労働省「職業安定業務統計」2023年)と高水準。
少なくとも現時点では、「AIが技術職を奪っている」とは言い難い。
ただし、米国などではAI技術の急速な進展により、
ジュニアレベルの新卒エンジニア採用が減少傾向にある(TechCrunch, 2024)。
この変化は日本でも数年後に波及する可能性がある。
重要なのは、「奪われるか/奪われないか」という二択ではなく、
どの職種がどのスパンで影響を受けるかを具体的に分析し、
その変化に対応できるスキルを磨くことだ。

4. 価値観のアップデート:実践的な3つの方法
では、どうすれば「本当に自分の価値観」を築けるのか?
ここでは、理工系学生におすすめの3つの実践方法を紹介する。
方法①:情報源の多様化
- 業界の多様化:IT、製造、バイオ、エネルギーなど異分野の人と話す。
- 年代の多様化:20代から60代まで、異なるキャリア段階の人の話を聞く。
- 国際的視点:海外の理工系キャリアや働き方を調べる。
💡実践例
月に1回、「まったく知らない業界」の人とコーヒーを飲む。
バーでの偶然の会話から、新しい視点を得られることも多い。
方法②:データに基づく検証
- 一次データの活用:厚労省・文科省などの公式統計を直接確認。
- 企業分析:財務諸表、成長率、離職率など定量データで判断。
- 感情論の排除:「なんとなく」「みんなが言ってるから」を基準にしない。
💡実践例
興味のある企業5社の過去5年間の売上・利益推移を調べる。
数字で見ると、評判や印象とのギャップに気づける。
方法③:定期的な見直し
- 半年ごとの価値観チェック:判断基準の変化を確認する。
- 前提条件の再検証:「なぜそう思うのか?」を3回繰り返す。
- 失敗の活用:判断ミスから学び、基準をアップデートする。
💡実践例
「価値観日記」をつけ、重要な判断の理由を記録する。
半年後に見返すと、自分の成長や変化が見えてくる。
重要な真実
自分の人生は、自分で決めるしかない。
自分を幸せにできるのは、自分しかいない。
自分で自分を信じられなければ、
他人も君たちを信じることはできない。
刷り込みではなく、データと経験で選択する力を鍛えよう。
それが「自分を信じる力」につながる。

5. 結論:君たちの人生は君たちが決めろ
「理系だから大手企業へ」
「親が望むから」
「みんながそうしているから」
──それは他人の価値観だ。
君たち自身の価値観ではない。
価値観も技術と同じく、定期的なアップデートが必要だ。
現代は変化が激しい時代。昨日の常識が今日の非常識になる。
だからこそ、生き残るのは「正しい答えを持つ人」ではなく、
正しい問いを立てられる人だ。
君たちの人生の舵を取るのは、君たち自身。他人任せにするな。
データを見よう。多様な視点を取り入れよう。
そして、自分の価値観を定期的に見直そう。
それができたとき、君たちは初めて「本当の自分の価値観」を手に入れる。

参考文献
- 片桐恵子・伊藤宗親 (2018). 「青年期の価値観形成に及ぼす気質と親の価値観の影響」日本心理学会第82回大会
- 森下正康 (1979). 「子どもの親に対する親和性と親子間の価値観および性格の類似性」『心理学研究』第50巻第3号, 145–152
- ダニエル・カーネマン (2011). 『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?』早川書房
- 厚生労働省・文部科学省 (2025). 「令和6年度大学等卒業者の就職状況調査(4月1日現在)」
- 厚生労働省 (2023). 「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」
- 中小企業庁 (2025). 「中小企業白書・小規模企業白書」
- 株式会社マイナビ (2025). 「マイナビ2026年卒大学生就職意識調査」
- TechCrunch / Indeed Hiring Lab (2024). 「AI and Junior Software Job Market Analysis」
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